薬害を含めた葉焼け症状と病害とを見分ける為の参考資料

今回は、よく生産現場で話に出る薬害もしくは葉焼けと思われる症状と、病害との違いについて取り上げてみようと思います。

専業で農作物を作られている方の場合、作物にもよりますが混用散布というのは一般的ですよね。

特に大型葉菜類等では4種5種混用といったように、複数の農薬を混用散布していると思います。

「そこまで混ぜないぞ!」という方もいらっしゃると思いますが、混合剤を取り入れている場合、成分としての混合数は4種以上なんて事は結構あるんじゃないかなと思います。

場合によっては、農薬に液肥等を複数絡めて6種以上なんて事もあるのではないでしょうか?

今回は、農薬や液肥散布後等によく見られる「葉焼け症状」と「病害」との違いについてピックアップしてみようと思います。



大前提として、そもそも農薬は混用散布に対して推奨も保障もしていません。

何かトラブルがあるとすぐに資材や農薬、肥料にせいにしたがる方が時々いらっしゃいます。

特に農薬の場合、薬剤処理して数日の間に何らかの症状が出る事が多い為、こういったトラブルが起こりやすいものです。

混用散布内容が決まっており何回も同じように処理している経験豊富な方や、自分で考えながら混用散布しているような方であれば、トラブルが有った際に何がまずかったのか考えて頂けるので、販売店やメーカーさんに対して激しく揉めるという事はまず無いと思いますが、そうではない場合、聞く耳持たずでトラブルになるというような話もちらほら伺います。

薬害トラブルやクレームに発展するような場合、大抵の原因は以下のような事が多いです。
●複数の薬剤・液肥等を用いた混用散布
●高温条件下または高湿度下での散布
●散布後の環境が高い温湿度状況になってしまう
●天候が悪い、散布後に雨に降られた
●使いたい農薬との組合せが悪い展着剤や液肥等の利用をしている

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他にも細かく挙げれば切りが無いですがおおむねこんなところです。


生産現場の考え、生産者皆様の想いや要望とは異なりますが、本来農薬は「薬品」ですので、基本的には単剤で使用する事を目的に作られています。
ですので、単剤で適切に散布すれば薬害はまず起きません。

時々、「そうはいっても混用事例を出しているじゃないか!」と言う方もいらっしゃいます。

確かにメーカーさんによっては、チラシとセットで混用事例を提供してくれている所が有ります。
特に後発剤を出すメーカーは、既存品で定番となっている農薬を中心に「混用した場合問題ないか?」についてチェックをかけるので、混用事例が出てくる事が多いです。

メーカーさんが行っている混用事例は、一般的に「物理的に混ざるか?」、「固まったり沈殿物が残ったりしないか?」といった事等を確認しつつ、特定の作物に実際に散布してみて、葉焼けや萎縮といった薬害が起きないかをチェックしています。

但し、このような混用試験は、大抵の場合ごくわずかな事例となりますので、あらゆる条件下での薬害有無を保障するものではありません。
また、大抵の場合は「1製剤+1製剤」という混用試験になりますので、そもそも複数混用の事例はとっていません。

混用に限らず、散布するタイミングであったり温度条件であったり組み合わせ方であったり、農薬散布には薬害リスクはつきものです(液肥散布でも起こり得ます)。

混用する事で相乗効果がかならず出るというものではありませんし、例えば銅剤との組合わせ等の場合、相性の悪い薬剤は効果が落ちてしまうような事も多々あります。

基本的には「化学薬品」なので、複数の化学物質が混じれば「予期せぬ化学反応も起きるでしょう?」というところですね。

本来、製品として完成した物を提供するのがメーカーさんの仕事ですので、何が起こるかわからない混用使用においては責任が取れないという事になります。
ですので薬剤混用については、あくまで使う側の責任となります。



混用事例を提供してくれているメーカーさんは現場で商品を定着させたい・売上を増やしたいという意向もしっかり有ると思いますが、基本的には善意で提供してくれている物です。
余計なトラブル回避の為、混用事例は改まって表に出さないメーカーさんも居ます。


ですので、「初めて使う」または「使い慣れていない薬剤(もしくは液肥)」を混用で使いたいという場合は、いきなり全面散布はしないようにして頂きたいところです。

農薬によっては注意事項に通常の使い方においてもNGを示している使用場面がありますので、そういった注意書きのチェックも必要です。


混用事例において不安が有る場合は、販売店さんやメーカーさんに確認をとってから使うようにしましょう。
実際に混用散布を行っている農家さんつながりが有れば、使用感等についてお互いに聞いてみるというのも大切です。

初回使用の物や使い慣れていない物を混用散布する場合は、非常に手間で面倒ですが、先に挙げたようにとりあえず初回から全面散布するような事は避けて、小規模でテスト散布をしてから広く使うようにして頂きたいと思います。
その際は、規定倍率より薬量を濃しないという取組も大切です。



圃場でよく見かける葉焼け症状など

農薬散布をした後等によく見られる葉焼け症状をいくつかピックアップしてみようと思います。

キャベツの例↓
葉っぱの表皮部分がはぎ取られたような症状。
キャベツの葉焼け①
キャベツの葉焼け③
このように、ベッタリと広範囲に症状が出ていて、画像のように白っぽくなっているような状態。
回りの組織が変色(黄色くぼやけたような色)をしていない場合は、病害というよりは「焼け」を疑います。


このような焼け症状は、炎天下の夏場によく見られる症状です。
散布後に日照りにさらされる事で、薬液が溜まった部分の組織が破壊される事で起こります。

葉が立っているような作物の場合は、展着剤等を上手に利用すると薬液が綺麗に広がるので液だまりも起こりにくくなり薬害症状も抑える事ができますが、下の画像(はくさい)の様に葉っぱが横に広がるような作物の場合、散布して間もない状態だと矢印部分のように葉っぱに水が溜まります。
葉焼けになる原因①
この状況下で強い照りを受けると、子供が理科の実験でやるような虫眼鏡を使って黒い紙に穴を開ける時のように葉っぱの組織が焼けてしまいます。
これは農薬でなくても起こり得る症状です。
水であっても程度は違えど同じような症状が起きたりします。

組織が破壊されてしまうので、下の画像の矢印部分のように、褐色になったり萎縮したりします。
薬液が残りやすい部分や葉縁等が変色していきます。
初期の生育不良は、以降の成長にも影響する事が有りますので、できるだけ避けておきたい所です。

はくさいの葉焼け症状↓
はくさいの葉焼け

キャベツの葉焼け症状↓
キャベツの葉焼け②
キャベツの葉焼け④

だいこんの生育初期での葉焼け症状↓
だいこん苗の葉焼け



病害症状の例について(糸状菌による病害)

ここからは「焼け」ではなく、糸状菌(かび)による病害の例をいくつかピックアップします。

糸状菌による病害は、胞子(かび)が飛散する事で病害感染し広がります。
初期の内から胞子が見られる物と、次第に胞子が見えてくる物などがありますが、べと病などは比較的わかりやすい病害です。


キャベツの苗べと↓ 過去記事でも紹介しています。
キャベツ 苗べと

レタスの苗べと↓ 過去記事でも紹介しています。
レタスべと病③
葉菜類のべと病は症状がわかりやすく、葉裏などに灰色っぽい胞子(ほこりのような物)が見られます。

ネギのさび病↓ 過去記事でも紹介しています。
ネギ さび病
これも糸状菌(かび)による病害の1つです。

ねぎのべと病↓ 過去記事でも紹介しています。
ネギべと病 病斑
こちらも胞子が出る病害ですが、黄色く色抜けしたような症状が特長的です。

黒斑病↓ 過去記事でも紹介しています。
ネギ さび病・黒斑病
病斑部の黒い粒から胞子が飛散して広がります。

きゅうりのべと病↓
きゅうり べと病
ウリ科野菜のべと病は、葉脈に沿って病斑が出るのが特長です。
多発すると褐斑病と見分けがつきにくくなったりしますが、褐斑病も糸状菌(かび)による病害です。



病害症状の例について(細菌による病害)

ここからは細菌性の病害についていくつかピックアップします。

キャベツ黒腐病↓ 過去記事でも紹介しています。
キャベツ黒腐病画像

はくさい黒腐病↓ 過去記事でも紹介しています。
はくさい黒腐病画像02
黒腐病は、葉縁からV字に病斑が出るのが特徴的です。
細菌性病害は水口や傷口、葉縁等から入ってくることが多いです。
また、病斑の回りは黄色っぽく色が抜けたような症状が現れます。

レタス斑点細菌病↓  過去記事でも紹介しています。
レタス斑点細菌病
黒腐病や斑点細菌病など、病斑点を生じる病害の多くは、病斑の周囲が黄色っぽく色が抜けたような症状になります。
病斑部分の症状が進むと中心部分に穴が開いたり、黒く乾いてパリパリになるのが特徴的です。
このような症状が見られる場合で目立った胞子(かび)も見られない場合は、細菌性病害の可能性が高いです。

先に挙げたべと病などは、病斑部がぼんやり黄色っぽく比較的広範囲に色抜けしたり、葉脈に沿っていびつな四角形を作りながら色が変わっていきます。

ねぎ軟腐病↓
軟腐病被害
軟腐病は、多くの作物で起こる病害ですが、悪臭が特長的な細菌性病害です。
ネギ等の場合、地際が侵されやすく、画像のようにとろけたような症状になる事が多いです。
ネギに限らず軟腐病が多発しているような圃場は、畑に近づくだけで独特の悪臭を感じる事が出来ます。



まとめ

という事で、今回は薬害と言われやすい葉焼け症状と、病害症状について取り上げてみました。
作物によっても病害によっても症状の違いは有りますので、詳しく見たいという場合はそれぞれの病害でチェックしてみて下さい。

農薬散布後の葉焼け症状については、出る場合と出ない場合が有りますが、散布後の晴天が予想される時や高温状態になりそうな時は、今回紹介した葉焼け症状は起こりやすくなりますので、散布時間やタイミングに注意して頂くと良いと思います。


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“薬害を含めた葉焼け症状と病害とを見分ける為の参考資料” への2件の返信

  1. 勉強になります。質問があります。
    花卉の穂木をベンレート(展着剤も混ぜ)に15分程度浸して、挿し木をしています。キャベツの葉焼け症状と似ています。50%遮光で、気温も25℃以上に上がらない夜にしています。
    ※補足として、オキシロベン40倍12時間吸水後にベンレートし挿し木です。
     何か考えられる原因はあるでしょうか?よろしくお願いします。

    • 永田様
      コメントありがとうございます。
      ベンレートの浸漬処理についてですが、どの植物に対しての処理だかわかりませんので登録作物に限定した内容となりますが、切り口部分の消毒が主となりますので、基本的には展着剤は無加用で問題ありません。
      オキシベロンは発根を促す作用のある薬ですが、こちらも切り口部分の処理が主です。
      こちらも同様に展着剤は不要です。

      12~24時間さし穂基部浸漬の場合、オキシベロンについては「花き類・観葉植物(カーネーション、きく及びチューリップを除く)」で200~400倍(5~2.5mL/水1L)の登録となっています。

      40倍だと樹木類に対する登録で浸漬時間も変わってきます。

      また、オキシベロンを使う場合は他の農薬との混用は避けるという注意事項があります。
      ベンレートと1つの容器内で混用していないとしても、オキシベロンを吸水してすぐのタイミングでベンレート処理になると、混用しているのと近い状態になると思いますので、倍率が規定範囲内だとしてもあまり良いとは言えません。

      倍率や温度条件含め、薬剤処理以外に思い当たる節が無い中で、処理後に例えば葉先(縁など)の褐変が見られるようであれば薬害的な症状が疑わしいです。

      樹木類や花き類という登録になっていても全ての品種でデータを取っているわけではありませんので、品目によっては微調整が必要になる場合も有ります。

      対応としては、倍率や漬け込む時間の見直し。
      穂木全体を漬け込んでいるのであれば切り口部分だけを漬ける。
      展着剤は可溶しない。
      混用に近いような状況下で使用しない

      といった所は基本となります。

      どうしても両方の薬剤を使いたいというのであれば、薬剤ごとの処理間隔をあけて処理してみる。
      あるいは薬剤ごとの処理間隔をあけて逆の順で処理してみるといった対応もひとつの手段になるのではないかと思います。

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