レタスの斑点細菌病の生態と、防除対策について(農薬紹介も含む)

品種間差もあるかもしれませんが、レタスの斑点細菌病は生産現場で困る事が多い病害の1つです。

こちらのページでは、レタス斑点細菌病についてと、防除対策、農薬情報について紹介します。

レタスの斑点細菌病とはどんな病気なのか?

レタス斑点細菌病は、キサントモナス キャンペストリス pv. ビテイアンスという細菌(バクテリア)によって引き起こされる病害で、どこの産地にも見られる病害です。
同じキサントモナス属系の病害だと、キャベツの黒腐病あたりが有名ですね。

この病害は、発芽後や定植直後の幼苗にも発生する病害ですが、主として結球してから発生する事が多い病害で、被害も結球期以降に目立ってきます。

株全体が腐敗する事は少なく軟腐病のような悪臭もありませんが、収穫間際のレタスにも発生する為、商品価値が著しく落ちます。
レタスの生産現場では非常に困る事が多い病害の1つです。

病原細菌の発育温度は26℃~28℃程度と比較的高めですが、気温が比較的低い時期で多湿条件下が続くと発生・多発する傾向があります。

高冷地の露地栽培では初夏~秋冬にかけて、暖地の露地栽培やトンネル栽培だと秋~春にかけて発生します。

主な感染経路は、葉縁の水口や、降雨や風によって葉が痛んだ個所からの侵入です。
病害の出方は、主に外葉に出る事が多く、葉縁の近くに細かい斑点を生じます。
その斑点がいくつも重なって葉縁が枯れ込み、更に放置すると基部に向かってV字に枯れ込みます。

病害が出てしまった作物の残渣を放置すると、その残渣と一緒に病原細菌が土壌中に残って生存(越冬)し、次作に被害を及ぼします。

トンネル栽培で多く見られる病害ですが、露地栽培では雨の多い時に発生が増えます。
高冷地などでは降雨だけでなく、霧によって病害が発生するケースもありますが、基本的にはその年の降雨状況によって左右されます。
特に結球が始まってくる時期からの降雨量が多い年ほど多発する傾向が有りますので注意が必用です。

降雨が続くと他の細菌病と併発する事が多いので、薬剤防除での予防は定期的に行う方が良いでしょう。

秋の台風や大雨を受けると、作物の根が傷んで栄養分が吸収できなくなります。
そうすると作物も樹勢が落ちてしまう為、作物が持つ免疫力も低下します。
冷たい雨に打たれる時期は特に注意が必用です。

レタス斑点細菌病は、その時期にもよりますが、腐敗病や軟腐病、菌核病、すそ枯れ病等と併発する事が多々ありますので、これらに効果のある薬剤を選んでローテーションに組み込んでおくと良いです。

大雨が降ると、水にのってセンチュウも流れてきますので、殺センチュウ剤を導入していない圃場は、浸水害+センチュウ害も出ます。

レタス斑点細菌病被害の様子↓
レタス斑点細菌病

レタス斑点細菌病②

苗床で見られるレタス斑点細菌病症状
レタス斑点細菌病苗



レタス斑点細菌病の見分け方と耕種的防除方法について

斑点細菌病は、地際に近いところの外葉から始まる事が多い病害ですので、圃場を観察する際には、下葉をよくチェックして下さい。
少しでも異常に見える株があれば、すぐに薬剤防除を行うようにしてください。

類似した病害に斑点病がありますが、斑点病の場合は、病斑の上に黒いツブツブした物ができるのに対し、斑点細菌病の場合にはそれが有りません。

耕種的な防除としては、斑点細菌病の発生圃場の場合、連作を避ける事が大切です。
どうしても厳しいという場合は、抵抗性品種を作付けする方法も有効な手段と言われていますので、お近くの種苗店かJA等にお問い合わせしてみて下さい。

作付けの際は、レタスを直接土壌に接触させないように必ずマルチを敷いて作付けを行って下さい。
排水の良くない所で多発する傾向が有りますので、必ず高うねにして栽培するようにしましょう。

トンネル栽培の場合は、結露等により病害が広がりますので、換気に注意するようにして下さい。

レタス斑点病の農薬防除について

ここでは、2020年現在のレタス斑点病に登録のある薬剤についてピックアップします。

■定植前に使用する事で予防効果を発揮する薬剤

オリゼメート粒剤(F:P2)
病原菌に対して作物に抵抗性を持たせるよう誘導する薬です。
これを先に処理しておくと無処理時と比べて病害の発生を軽減させる効果が期待できます。

■結球期前までに使う薬剤

ナレート水和剤(F:31、F:M1)
スターナ水和剤の成分(10%)と有機銅の混合剤です。
斑点細菌病の他に、軟腐病、腐敗病の登録を持ちます。
スターナ水和剤単剤よりはスターナの成分量は少ないですが、銅剤が混ざっている事で幅広い病害に対して予防効果を有します。
基本的に銅剤を含む製剤は、結球してからの使用はお勧めできません。
薬剤の性質上、散布汚れが生じますし、乾くのが遅かったりすると薬害リスクも生じます。
また、殺虫剤と混合する際も、銅成分を含有する物は、混用する殺虫剤などによっては効果が落ちてしまう場合が有りますので、混用したら時間を置かずに使い切るようにしましょう。

ロブドー水和剤(F:2、F:M1)
ロブラール水和剤の成分と有機銅の混合剤です。
斑点細菌病以外に、菌核病、腐敗病、軟腐病の登録を持っています。
こちらについても銅成分を混合している商材ですので、使用場面は結球前までとなります。

カスミンボルドー水和剤・カッパーシン水和剤(F:24、F:M1)
カスガマイシンという抗生物質と無機銅剤との混合剤です。
JA専門で販売している物をカスミンボルドー、一般小売店を中心に販売している物をカッパーシンと言います。
非結球レタスにも登録が有り、斑点細菌病の他に腐敗病登録を持っています。
銅剤を含有していますので、結球前までの使用がおすすめです。
散布後、いつまでも乾かないような状況だと薬害を助長する事がありますので、散布の時間帯や乾燥具合に注意して下さい。

キノンドーフロアブル・ドキリンフロアブル(F:M1)
この2つは登録内容は異なりますが、同じ有機銅成分を35%含有した商材です。
キノンドーフロアブルは非結球レタス登録も持っており、斑点細菌病、軟腐病、腐敗病の登録を有します。
ドキリンフロアブルについては、同じく非結球レタスの登録を持っているものの、レタスも非結球も斑点細菌病登録がありません。
登録上は、軟腐病と腐敗病登録となっています。

ヨネポン水和剤(F:M1)
有機銅剤ですが、他の有機銅剤とは少し毛色の違う殺菌剤で、展着効果があり、石灰分(カルシウム)を含んだ殺菌剤です。
リーフレタスにも登録を持っています。
病害登録は、斑点細菌病の他、軟腐病、腐敗病、べと病の登録が有ります。

■結球期以降でも使える薬剤

スターナ水和剤(F:31)
オキソリニック酸という成分を20%含有しています。
斑点細菌病の他、軟腐病と腐敗病の登録を持っています。
非結球レタスにも使える農薬です。
銅成分なども入っていない為、結球期以降でも使える殺菌剤です。

ソタールWDG(F:31、F:14)
スターナの成分とリゾレックスの成分との混合剤です。
斑点細菌病の登録は持っていませんが、スターナの成分を15%含んでいます。
ナレートよりも5%ほどスターナの成分量は濃い製剤です。
登録は、軟腐病、腐敗病、すそ枯病となります。
リゾレックスの成分を含有している分、すそ枯れ病に対しても一定の効果が有ります。
銅成分は含有していない為、結球してからも使う事ができる薬剤です。


基本的に銅成分を含む農薬は予防剤です。
事前に銅成分で作物をコーティングしておく事で、斑点細菌病の病原菌を含め、病原菌を付きにくくさせる事を目的としています。

野菜類登録のZボルドーやクプロシールドもレタスの斑点細菌病対策として使用する事ができます。


残念ながら斑点細菌病に対しては、病気が広がってしまうと劇的に治療効果を発揮する薬剤は有りませんので、できるだけ予防的な防除を抜かないように心がける事が大切です。
特に天候不順の際は要注意ですので、圃場に入れるうちに、無理にでも予防散布を行うようにして下さい。


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実は微生物農薬を使うという予防手段もあります。

ベジキーパー水和剤(FRAC分類コードは未登録)
2022年以降、廃盤となってしまいました…

一応、過去記事として薬剤内容だけは残しておきます↓


シュードモナス フルオレッセンスという微生物を用いた農薬です。
有機JAS法に適合していますので、農薬散布回数のカウントがありません。
有機栽培や特別栽培農産物での使用にもお勧めできる薬剤ですので、化学農薬を使いたくないという方にもお勧めの薬剤です。

微生物を用いている為、付着性が良く降雨による影響を受けにくいといったメリットが有ります。
それどころか、適度な降雨があると微生物の定着を促進させます。

デメリットとしては、菌体資材という性質上、比較的薬価が高いという点と、治療効果はあまり期待できないという点と、微生物菌と拮抗してしまう農薬との混用ができないという点です。

微生物農薬は椅子取りゲームの要領を持つ農薬なので、治療的に使うというよりは、予防的に使う薬剤です。
作物が発病する前に定期的にローテーション散布する事で、発病リスクを抑える事ができます。

登録上は、レタス・非結球レタスの「腐敗病」の登録しかありませんが、他の作物登録でキャベツ、白菜、ブロッコリーの登録があり、「黒腐病」の登録を持っています。
冒頭記載したように、黒腐病は、ザントモナス属の病原菌となりますので、ベジキーパー自体もレタス斑点細菌病に対して一定の予防効果が有ります。

このベジキーパーの椅子取りゲーム作用には、もう1つのメリットがあります。

収穫前の仕上げに散布しておくと、雑菌の付着を抑制する為、収穫後の作物の棚持ちを良くする(腐敗を抑制する)といった作用があります。
収穫直前に使える化学農薬はほとんど有りませんので、使用前日数や回数の制限が無いというのはメリットがある薬剤だと思います。



この他に、マスターピース水和剤という微生物農薬も有ります。

シュードモナス ロデシアという微生物を用いた農薬です。
ベジキーパーが登録作物が限定的なのに対して、野菜類の登録を持っている為、幅広い作物で使用できます。
レタスに関しては、軟腐病 、腐敗病、斑点細菌病の登録を持っています。

作物の棚持ち効果についてはメーカーさん側のプッシュも弱いのであまり押せませんが、混用できる農薬はベジキーパーよりこちらの薬剤の方が幅広い為、生育期中での使用は扱いやすい微生物農薬です。
ベジキーパーは廃盤となってしまいましたので、代替品としてマスターピースの使用はできると思います。

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定期的な防除にM.O.X等の資材活用もお勧めです。

M.O.Xは肥料登録商材であり農薬ではありませんが、過酸化水素剤ですので、人間向けの薬剤としてはオキシドールのような物になります。

M.O.Xは斑点細菌病の治療薬ではありませんが、適度な殺菌作用がありますので、作物体についた雑菌類を洗い流しつつ、土壌に潅水すれば作物の根を通じて酸素供給もします。

生育期中の薬剤選定に困る場面、例えば降雨後等の場面では、かなり活用できるアイテムです。

但し、鉄系の葉面散布剤や、銅成分剤等の一部の殺菌剤との混用は推奨されていませんので、利用する際は単剤での使用にしておくと良いでしょう(化学反応で酸素が一気に放出されてしまう為)。

また、高濃度処理してしまうと、葉焼けやよじれ等の薬害リスクも有りますので、使用する際は登録倍数より濃く用いないようにして下さい。

M.O.Xについて関心がありましたら過去記事がありますのでご参照下さい。

農薬登録の少ないマイナー作物に使える農薬や、殺菌効果も狙えるM.O.X等ついてレビューします。



まとめ

レタスの斑点細菌病は、気象条件によって激発する事もある厄介な病害です。
土地の低い畑や水害を受けやすい畑では多発しやすい傾向が有りますので、生産現場では非常に困る病害だと思います。

降雨対策や換気対策等をマメに行いながら、生育初期からの予防を徹底する事が大切です。

どうしても化学農薬を使いたくないという方は、微生物農薬を用いるという手段も有効です。


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