5月~6月頃に発生するネギの重要病害「さび病(赤さび病とも呼ばれます)」
季節によって発生の大小はあるものの、多発年は何をやっても止まらないなんて話をよく伺います。
天候や気象条件によっても左右されるネギの重要病害です。
そんなネギのさび病について、改めて生態や防除対策、登録薬剤等についてフォーカスを当ててみようと思います。
目次
ネギのさび病の生態、特長などについて
ネギのさび病は、「Puccinia allii(プッシニア・アリ)」という糸状菌(かび)による病害で、生きた植物からしか栄養が取れない(増殖できない)絶対寄生菌という菌になります。
ネギのさび病菌はネギ類に寄生する病原菌で、ネギとタマネギに強い病原性を示します。
ネギのさび病に感染(羅病)したネギは商品価値が無くなるだけでなく、多発状況に陥ると葉全体が黄色い粉で覆われた状態になり、葉が枯れる場合もあります。
ネギ栽培における重要病害の1つです。
■ネギのさび病の広がり方、特徴等について
ネギのさび病は、主に葉に発生する病害で、感染した葉の上に橙黄色の小さい斑点が出る特長的な病害です。
目視でも簡単に見つける事ができます。
斑点型の病斑の中央は濃いオレンジ色、周りは黄白色をしています。
病斑をそのまま放置すると、斑点の中央部分から縦に破れて伝染減となる胞子(夏胞子)が飛び散ります。
夏胞子は風などによって近隣の株へ飛散・伝染し、病斑が広がっていきます。
ネギのさび病菌は24℃以上になると発芽率が低下しますが、放置したままにしておくと、真夏時には夏胞子の状態で夏を超します。
やがて気温が下がり晩秋になると、病斑部分は黒褐色にふくれあがり、やがて縦に破れて紫褐色の粉状胞子(冬胞子)が形成されます。
冬胞子は越冬し、翌春の発生源となります。
ネギのさび病が出やすい条件、温度帯等について
■ネギのさび病が発生しやすい季節について
地域や気候にもよりますが、春時期は5月~6月、秋は9月~12月頃に発生が見られます。
気象条件等により発生頻度は年ごとに異なりますが、5月~6月頃は特にさび病の被害が目立ちます。
特に6月頃になると、べと病や黒斑病等も併発する為、防除が抜けた無防備なネギの被害は甚大になるので発病前からの予防散布を徹底する事が大切です。
■病気の伝染減となる夏胞子の特徴について
春~秋の期間で、9℃~18℃が発芽適温です。
比較的低温で発芽します。
気温が22℃~23℃以下の低温多雨条件(多湿条件)になると発生が多くなります。
24℃以上になってくると発芽率は低下します。
気温条件にもよりますが、潜伏期間は1週間~10日程度ありますので、発生が見られる前から登録薬剤を持ちいたローテーション防除が重要となります。
また、ネギのさび病は、窒素肥料の与えすぎや肥料切れによる樹勢の低下によっても発病が助長される事がわかっています。
適切な施肥管理が必要となりますので、追肥についても注意しなければなりません。
■作付け時期に対しての発生時期(目安)
春まきのネギの場合、秋~冬にかけて発生が見られます。
秋まきネギの場合、翌年の春~梅雨時期に多発します。
■ねぎのさび病の発生(季節変動)について
先にも挙げた通り、ネギのさび病はその年によって発生が大きく変動します。
多発して止まらないというような時期も有れば、大した被害が出ない年も有ります。
ひとつの目安ではありますが、翌春の発生を予測する為のポイントについて紹介しておきます。
ネギのさび病は、秋の発生が多く暖冬で雨が多い年だった時には、翌春の発生が多くなると言われています。
ネギのさび病が特に問題となるのは春~初夏前ですが、晩秋に発生が見られた圃場は注意が必用です。
秋口の発生を抑えておけば、翌春は被害の程度を抑える事にもつながります。
同じ様に春の発生が多かった圃場は、条件次第で晩秋も多発する可能性があるという事です。
どちらにしても、さび病は発生初期までに対処しておかないと被害が甚大化しますので、圃場をよく観察して小さな斑点であっても見つけ次第、防除を行うようにして下さい。
収穫後の被害残渣についてもできるだけ圃場外に持ち出して処分するようにしましょう。
仮植床や育苗床についても、被害の出た圃場の近くに設けてはいけません。
感染リスクを避ける為、ネギ圃場から離すようにして下さい。
ネギのさび病に対する登録農薬(殺菌剤)について
2020年6月現在、ネギのさび病で登録を持っている主要薬剤一覧です。
農薬の登録内容は不定期に変更や削除になる場合がありますので、お使いになる際はメーカーHP等で最新の登録情報をご確認下さい。
混用NGの農薬も有りますので、注意事項をよく確認してから使うようにして下さい。
予防および治療の表記は目安となります。
治療と書かれた薬剤については、病斑を綺麗に治す(元に戻す)作用では無く、病気の進展を止める作用の強い物を指しています。
但し、病害発生後の使用では防除効果が落ちる場合が有ります。
治療効果が期待できる薬剤であっても、発病前から発病初期までのタイミングで使うようにして下さい。
●アフェットフロアブル
FRAC:7 (予防+治療)
黒斑病、白絹病、葉枯病、小菌核腐敗病、黒腐菌核病にも予防的に使えます。
●アミスター20フロアブル
FRAC:11(予防+治療)
黄斑病、黒斑病、葉枯病、べと病、リゾクトニア葉鞘腐敗病にも効果が有ります。
ネギ栽培の現場でも最も使われている殺菌剤だと思います。
薬害リスクが高くなりますので、高温時や幼苗期、軟弱苗に対しての散布は避けるようにして下さい。
●アミスターオプティフロアブル
FRAC:11(アミスター)・M05(ダコニール)(予防+治療)
黄斑病、黒斑病、葉枯病、べと病、小菌核腐敗病にも効果が有ります。
ダコニールを含有している為、発病前に処理しておくと、幅広い病害を予防できます。
●イオウフロアブル
日数・使用制限無し、 500倍、FRAC:M02(予防主体)
●オンリーワンフロアブル
FRAC:3(予防+治療)
黒斑病に対しても効果が有ります。
●カナメフロアブル
FRAC:7(予防+治療)
劇物登録のSDHI剤です。過去記事でも紹介しています。
リゾクトニア病害を得意とし、白絹病に対しても効果が有ります。
しっかり抑え込む作用があるので、発病後のストッパーとして使うよりは、多発させない為のローテー剤として使用するのがお勧めです。
●サプロール乳剤
FRAC:3(予防+治療)
●ジオゼット水和剤
FRAC:19(予防+治療)
ポリオキシンD体殺菌剤で、リゾクトニア病害が得意。
●シグナムWDG
FRAC:11(ストロビルリン剤)・7(カンタス)
(予防+治療)
黒斑病、べと病などに対しても有効な殺菌剤です。
●ジマンダイセン水和剤
FRAC:M03(予防主体)
黒斑病やべと病に対しての予防効果もあります。
●ストロビーフロアブル
FRAC:11(予防+治療)
黄斑病、黒斑病、べと病に対しても効果が有ります。
●ダイアメリットDF
FRAC:M07(ベルクート)・19(ポリオキシン)(予防+治療)
黒斑病に対しても効果が有ります。
●ダコニール1000
F:M05(予防主体)
黒斑病、葉枯病、べと病、小菌核腐敗病、リゾクトニア菌による苗立枯病などに対して予防効果が有ります。
●テーク水和剤
FRAC:3(モンガリット)・M03(ジマンダイセン)(予防+治療)
べと病、黒斑病、葉枯病に対しても効果が有ります。
●パレード20フロアブル
FRAC:7(予防+治療)
浸達性と移行性のあるSDHI剤です。
黒腐菌核病に対しても有効な薬剤です。
過去記事でも紹介しています。
●ファンタジスタ顆粒水和剤
FRAC:11(予防+治療)
黒斑病、葉枯病、小菌核腐敗病などに対しても効果が有ります。
病斑の進展を止める作用が有ります。進達性、移行性といった作用が有ります。
●ブローダ水和剤
FRAC:M03(ジマンダイセン)・3(ラリー)(予防+治療)
マンゼブの含有量は、ブローダが65.0%、ジマンダイセン単剤が80.0%
ミクロブタニル(ラリー)の含有量は、ブローダが2.0%、ラリー水和剤が10.0%
●ベジセイバー
FRAC:7(アフェット)・M05(ダコニール)(予防+治療)
べと病、白絹病、葉枯病、黒斑病、小菌核腐敗病に対しても予防効果有り。
●ベルクート水和剤
FRAC:M07(予防+治療)
どちらかというと予防寄りの殺菌剤です。
黒斑病、葉枯病に対しても予防効果有り。
●メジャーフロアブル
FRAC:11(予防+治療)
黒斑病、葉枯病、べと病に対しても効果有り。
薬害リスクが高くなりますので、高温時や幼苗期、軟弱苗に対しての散布は避けるようにして下さい。
●ユニフォーム粒剤
FRAC:11(アミスター)・4(リドミル)(予防+治療)
白絹病、べと病に対しても効果有り。
●ヨネポン水和剤
FRAC:M01(有機銅 予防主体)
石灰分(カルシウム)を含有している為、作物の生育にも良い影響を与えます。
軟腐病、べと病、黒斑病に対しても予防効果が有ります。
有機銅製剤ですが、銅成分剤は薬害リスクもありますので、その他の銅製剤と同じように、高温時散布をさけるようにし、できるだけ速やかに薬液を乾かすよう配慮して下さい。
●ラリー水和剤・乳剤
FRAC:3(予防+治療)
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まとめと登録薬剤についての補足等
ネギのさび病は、天候の影響を受けやすい病害である為、多発させないようコントロールする事が大切です。
先にも書いた通り、肥料の影響も受けやすい為、窒素過多や肥料不足になると病気の発生を助長します。
この時期に絡んで同時発生する病害としては、べと病や黒斑病等があります。
いずれも放置してしまうとネギに深刻なダメージを与えてしまう為、注意しなければなりません。
6月に入ってくると、ハモグリ被害+さび病+黒斑病+アザミウマ発生という感じで、病害虫の発生もオンパレードという状況になり勝ちです。
近年はシロイチモジヨトウ等のチョウ目害虫も絡んでくる場合が有ります。
さび病などが出やすい圃場では、ユニフォーム粒剤を入れながら、殺菌剤散布のローテーション散布を継続します。
アミスターやメジャー等のストロビルリン系薬剤は、薬害リスク(ストロビルリン系薬剤の薬害症状については別ページでも紹介しています)が有りますので、作の前半は比較的安心して使えるパレードやカナメ等のSDHI剤か、ラリー、オンリーワン当たりが用いられる事が多いです。
登録スペクトラムが広く扱いやすいシグナムWDGや、ストロビルリン系薬剤としては薬害リスクの低いファンタジスタ等もローテーションではよく活用されています。
生産現場では、さび病を止める為には薬害が出てもしょうがない!という考えから、「アミスター+ミックスパワー等」の組合せでの使用実例も有りますが、さじ加減がわからないという方の場合、基本的にはFRACグループ11のストロビルリン系薬剤(アミスター、ストロビー、メジャー、シグナム等)を使用する場合は、浸透性を高める展着剤(ミックスパワー、アプローチ、スカッシュ等)との混用は、薬害リスクが高くなりますので避けるようにしましょう。
少しクセのある殺菌剤に展着剤を用いる場合は、「ドライバー」等の濡れ広がり重視で乾きの早い展着剤を用いるようにすると良いです。
ドライバーを用いる場合、ネギやキャベツなど、濡れ性の悪い作物については、推奨倍率は1000倍で勧めています。
コスト重視の方であれば、2000倍で使ってもそれなりに広がりますので、上手に活用頂ければと思います。
ストロビルリン系薬剤の薬害を出しにくくする方法としては、浸透性を高めるような展着剤の添加を避けるという方法の他に、散布薬剤を素早く乾かすという事も大切です。
いつまでも乾かないような状況が続くと薬害リスクが高くなります。
さび病が出やすい時期は、病害の潜伏期間も加味して、予防治療作用のある薬剤を中心に、5日~7日おきでローテーション散布を行うようにしましょう。
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お忙しいところ失礼いたします。
少しクセのある殺菌剤に展着剤を用いる場合は、「ドライバー」等の濡れ広がり重視で乾きの早い展着剤を用いるようにすると良い
という部分の少しクセのある殺菌時とは、具体的に何々がありますか?
コメントありがとうございます。
クセのある農薬という表現については何とも書きようがないのであえてそんな表現を使っていますが、参考となる例としては以下のような物が多いと思います。
●浸透移行性が強い農薬で、展着剤を入れなくてもその農薬単剤だけで事足りる。条件が悪いとその農薬単剤でも葉焼け等の薬害が起きてしまう。
●機能性展着剤(農薬成分を作物体内に入れ込む・浸透させる事を目的とした展着剤)の使用を避けるという注意事項が有る農薬。
●農薬の注意事項に薬害リスクについて書かれている項目が多い農薬。
●幼苗期や軟弱時に薬害が起こりやすいとされる農薬。
表現の仕方や受け取り方は皆さんまちまちなので、一例として下さい。
よく挙げられる薬剤だとアミスターやメジャーといったストロビルリン系薬剤が代表的な部類です。
これらは商品の注意事項に「浸透移行を高める展着剤の使用を避ける」という注意事項や、育苗期間中の散布における薬害リスクについて記載が有る農薬になります。
※浸透移行性が有る農薬でも現場で使っていてクレームになる率が少ないといった物も沢山有るので、上はあくまで一例です。
銅剤等、濡れている状況下だと銅イオンを放出し続けて葉焼けを起こすなんていう場合もありますので、そのような物についても早く乾かしてしまった方が良いと思います。
モレスタン等のキノキサリン系の薬剤も混用事例を見ると機能性展着剤を避けるといった内容になっていますので私の主観ですとクセのある薬剤に入ってきます。
ドライバー自体は作物体に散布した農薬を広げる事に特化した展着剤で、農薬の成分を作物体内に入れ込む事を目的とした展着剤ではありません。
殺菌剤との相性がとても良い展着剤ですが、殺虫剤混用でも使えます。
散布した薬剤を広域に広げたいという場合には、ドライバーに限らずシリコーン系の展着剤(まくぴかやブレイクスルー等の展着剤)も有効です。