パレード20フロアブルのネギのセル苗灌注登録(ねぎ黒腐菌核病)・黒腐菌核病の生態と防除対策についてまとめます。

2020年7月にパレード20フロアブルの適用拡大が有りました。

定番殺菌剤であるSDHI剤の内の1剤ですが、発売元の日本農薬㈱さん曰く、発売当初からネギの黒腐菌核病に対して強い自信を持っている薬剤です。

パレード20フロアブルについては過去記事でも取り上げていますが、セル苗灌注登録については、今回追加となったネギの他に、キャベツ(菌核病・苗立枯病(リゾクトニア菌)・根朽病)、はくさい(菌核病)、レタス(菌核病・すそ枯病)、非結球レタス(菌核病・すそ枯病)
といった作物で登録をとっています。

登録内容の詳細についてはメーカーさんのHPをご参照下さい。

ネギ以外の作物については、100倍希釈のセル苗使用で1.5~2カ月くらいの残効があるとされていますが、今回新たに適用拡大となったネギのセル苗灌注は、試験場ベースで4カ月以上の残効が確認されているそうなので、実際の生産現場でありがちな使い方のブレが有ったとしても、他の葉物より特異的な残効が期待できそうです。



ネギの重要病害、ねぎ黒腐菌核病について

ネギの黒腐菌核病はネギの重要病害の1つです。
Sclerotium cepivorum Berkeley(スクレロチウム セピボラム バークレイ)という糸状菌によって発病する病害で、Sclerotium cepivorum は、「ニラ、ニンニク等、ネギ以外の作物」にも発症します。

ネギの場合、感染すると葉先の黄白化や地際部の腐敗、生育抑制がかかります。
症状が酷いと株全体が枯れあがって枯死します。

ネギの場合、菌核自体は地表10㎝程度の所にもいる菌で、土壌中の菌核は温度や水分などの適した環境下になると発芽し菌糸を伸ばして作物に感染します。


ざっくりと黒腐菌核の生活環について表記すると…

伝染源である菌核→菌核の発芽→1次感染(根・茎盤部・葉鞘)→2次感染(更なる被害の拡大)→新たな菌核の形成

といった流れになります。


ネギの場合は、盤根部(茎盤部・根っこ部分)から侵入します。
いきなり軟白部(白身部分)からの侵入はないと考えられています。

ネギの部位名称について(略図)↓
ネギの部位名称

感染すると黒色のゴマ粒状の菌核を形成し、商品として出荷できなくなります。


ネギの黒腐菌核病の発病適温は、気温10~15℃、地温10℃~20℃くらい。
菌糸の生育適温としては15℃前後です。

5℃~20℃くらいの温度帯で生育する病原菌ですが、低温期を好む病害である為、25℃以上では菌は成長しないとされています。

発病の好条件としては、気温条件の他に、やや多湿で酸性土壌ほど出やすいといった特徴も有ります。

難防除病害ですので、今は病気が出ていない圃場であっても、同じ圃場でネギを連作していたり、近隣で発病が見られるような場合は注意が必用です。

激発圃場の場合は予防を含めた防除が大変難しく、一度病気が発生してしまうと病源菌は土壌中に残留し、数年間ネギを作らなかったとしても再発してしまうような病害である為、農薬による防除と耕種的防除の両方を組み合わせた総合的な防除対策が推奨されています。



パレード20フロアブルのセル苗灌注の使いどころについて

メーカーさんの試験情報等によると、パレード20フロアブルのセル苗灌注の薬効期間が登録通りの濃度、登録通りの処理量で、4~5カ月と言われています。

セル苗灌注をしてから定植し、4~5カ月の期間内に全く黒腐菌核病に感染しないというわけではありませんが、従来の作付け・防除の流れからすると大幅に黒腐菌核の発病を抑える事ができます。

これまでも「本圃での防除対策」は色々と試行錯誤して行われていました。
各県・普及所・JA等によっても、セイビア、アフェット、パレード、モンガリット等、防除をすべきタイミングの指導がされていたと思います。

ですがタイミングや条件が外れてしまうとなかなか防除が難しいという現状が有りました。

パレードのセル苗灌注処理は、従来にはなかった処理ポジションとなる為、これまでより飛躍的に防除効果を高める事ができると考えられています。



関東の露地栽培を例に考ると、パレード20フロアブルのネギのセル苗灌注登録の使いどころは、積極的な農薬防除を行わない冬場から初春頃までのトンネル掛け期間の発病を下げる為に使用するのが特にお勧めできそうです。

黒腐菌核病が発病しやすい期間(先にあげた適温期間)としては、関東平地を例にすると、その年の気候状況にもよりますが2月の中下旬~6月上旬頃までといった具合です。

その中でも前半3カ月くらい(2月後半~4月いっぱい頃)が特に発病しやすいタイミングかもしれません。

作型や品種は地域性が有るので一概には言えませんが、11月頃~1月頃にかけて定植し、トンネル掛けをするような品種(例えば晩抽性が高い定番品種のサカタの春扇、トーホクの羽緑、初夏取りのトキタの「深緑のいざない」、タキイの初夏一文字等)は、関東平地の場合2月下旬~3月上旬くらいまではトンネル掛けをする事が多い作型です。



トンネル掛けをすると日中のトンネル内の空間温度が高くなりますので、気付かないうちに黒腐菌核病菌が活発化している場合があります。

トンネルを外した時に被害が出ている場合もよくありますし、トンネルを外した後から発病が広がる場合もよくあります。

ですので、このトンネル掛けをする期間の黒腐菌核病の発病株数を下げる事ができれば、パレード20フロアブルのセル苗灌注を行うメリットは十分有るでしょう。


地域性もありますがトンネル掛けをしない1月以降に定植するような品種、例えばサカタのタネの「初夏扇」や、みかど協和の「夏の宝山」、トキタ種苗の「大地の響き」等の品種も、黒腐菌核病菌が動き出す期間を通過する作型ですので、セル苗灌注処理をするメリットは十分有ります。


スポンサーリンク
Amazonでお勧めのネギ種を検索する
Amazonでパレード20フロアブルを検索する



パレード20フロアブルのセル苗灌注は、幼苗期から生育初期にかけてのネギを守る事を目的として使いましょう。



さて、パレード20FLの話に戻りますが、登録にあるセル苗灌注での狙い目としては、まずネギ苗自体を守ろうという事に重点を置いています。

ネギの黒腐菌核病の防除は、盤根部(茎盤部)をしっかり保護してやることが重要です。

定植前にパレードを処理すると、根部から有効成分が吸収されます。
生育期の地下部(茎盤部)をガード(保護)してくれますので、定植してからもその効果が継続します。

パレードの有効成分における黒腐菌核病の菌核発芽阻害・菌糸伸長阻害としては、0.01ppmあれば良いとされています。
EC50値(50%を抑えるのに必要な濃度)としては、0.001ppmあれば良いとされています。

メーカーさんの技術資料にも記載されていると思いますが、鳥取県米子市における社内試験、灌注処理後の有効成分の動態分析データによると、処理154日後(9月時点)の茎盤部付近(1次感染部位)の濃度が0.5ppmあったというデータがあります。

↑試験内容
(秋どり栽培、品種:夏扇パワー、220穴セルトレイには種(種子3粒/1穴)11月、定植:翌4月、定植当日に灌注処理)



パレード20フロアブルをセル苗灌注すると、薬効がある期間中は、黒腐菌核病菌に対する防除効果が高まります。
4~5カ月の残効を考えると、幼苗期から、定植後の生育初期くらいまでの間の予防と考えて使うのが無難です。

しかしながら、黒腐菌核病菌は本圃の土中に居ますので、定植してから薬効が切れだす頃になると病源菌に感染するリスクが一気に高まります。

ですので、予防効果を継続させる為に、トンネルを外した頃から1回目の土寄せ前までの期間中に追いかけ防除を行って下さい。

ネギの盤根部まで薬剤が行きわたるように、土を消毒するようなつもりで、ネギの地際部を中心に丁寧に散布して頂ければ良いと思います(実際の生産現場だと灌注・灌水になっていると思いますが…)。

お勧め薬剤としては、パレード20FL、セイビアフロアブル20、アフェットフロアブルです。



パレード20FLを含めた黒腐菌核病薬剤についての特徴、防除タイミングについて

さて、上記の続きとなる内容となりますが、パレード20FLと他の黒腐菌核病薬剤についての特徴についてと、お勧めの防除タイミング時期について、少し紹介しておこうと思います。

私情も入っていますので参考程度に見て頂ければと思います。


●パレード20FL
SDHI剤、FRAC:7
浸達性・移行性が有ります。
土壌に対する吸着力としては、セイビアほど高くありませんが、低くも無いといったところです。
黒腐菌核病の防除効果として発病抑制効果は高いと考えられます。
セル苗灌注処理、定植前・土入れ・土寄せ時と幅広いタイミングで使える薬剤です。

●アフェットFL
SDHI剤、FRAC:7
浸達性・移行性は期待できません。
土壌に対する吸着力も低いです。
発病抑制効果としては、菌核に対しての安定感は有ると思います。
パレードに次いでという感じですが、予防効果は有る剤です。
作物体内に入りにくい表面保護という感じなので、お勧めの使用時期としては、土入れ時や土寄せ時辺りが良いでしょう。
発病が進行しているような場合にはお勧めしません。

●セイビアフロアブル20
FRAC:12
黒菌と言えばセイビア!という感じで、ねぎの生産地域では多用されている薬剤だと思います。
通常の使用倍率は1000倍で水量100~300L/10a、散布利用という登録内容になっていますが、地域によっては登録外使用による多量灌水なども行われています。
しかしながらその行為の裏付けは十分理由があるのも現状です。
セイビアはパレードのような作物体に入る作用は期待できませんが、高い土壌吸着力が有るのが特長です。
発病抑制効果も比較的高い薬剤となっています。

●モンガリット3Kg粒剤
FRAC:3
10a当たり6Kg、株元散布という登録内容になっています。
モンガリットは1Kgと3㎏がありますが、1Kgは水稲専門(有効成分濃度4.5%)、3Kgは畑作でも使える登録内容(有効成分濃度1.5%)です。
浸透移行性が有りますので、根から有効成分を吸収します。
モンガリットは菌糸形成の阻害、発芽阻害、菌糸伸長の阻害と3カ所の作用点が有りますが、主に菌糸伸長を阻害します。
発病抑制効果としては他の剤と比較するとやや低いといった所です。
土壌吸着力はアフェットよりは高いですが、それほど高くありません。
定植時期、土入れ時期、土寄せ時期といった所が使いどころでしょう。


これ以外の薬剤ですと、2020年度に住友化学さんのカナメフロアブルがネギの黒腐菌核病に適用拡大となっています。
登録内容は4000倍、水溶300L/10aを株元散布となります。
浸達・移行性が有る剤ですが、どちらかというと「さび病」や「白絹病」に特化したSDHI剤なので、アフェットフロアブルの散布ポイントと被るのかな?という印象です。
薬価としては安い部類のSDHI剤なので、ローテーションで回すのには良い剤だと思います。



パレード20フロアブルのセル苗灌注は、主力薬剤との混用が可能ですが、お勧めの処理タイミングがあります。

メーカーさんのネギ用チラシにも明記されていますが、ペーパーポット苗の灌注混用事例として、アドマイヤー顆粒水和剤、アドマイヤーフロアブル、アルバリン顆粒水溶剤(JA品はスタークル顆粒水溶剤)、キックオフ顆粒水和剤、ジュリボフロアブル、プレバソンフロアブル5、ベリマークSC、ベンレート水和剤、トップジンM水和剤、トリフミン水和剤等の薬剤で、混用時に問題なかったという事例を取っています。


一点、注意点として………

パレード20フロアブルのセル苗灌注の登録内容は「育苗期後半~定植当日 」となっていますが、効果を充分発揮させる為には、3日~1週間くらい前にパレードを処理しておくようにして下さい。

試験事例では定植当日処理となっていますが、実際の生産現場では使い方のさじ加減でブレも出る事が想像できるので、しっかり有効成分を吸わせておきたいところです。

ですので、定植当日処理はあまりお勧めできません。

100倍より薄くして使う場合も残効がブレます(残効期間が変わってくる)ので、しっかりとした効果を発揮させる為には規定倍率で使うようにしましょう。


セル苗処理に使われる殺虫剤(アドマイヤーやアルバリン、ジュリボフロアブル(アクタラ)、キックオフ(アルバリン)ようにネオニコチノイド系の薬剤が入った物)は、処理して日数を置いてしまうと葉先に成分が移行して縁枯れのような症状を起こしてしまう為、前日または定植当日に処理している事が多いと思います。

ネオニコチノイド系薬剤を定植前から当日のタイミングで使う場合は、パレードを先に処理してから追いかけで処理するか、(天候や温度条件等によっても異なると思いますが…)3日程度置ける場合はネオニコチノイド系薬剤の入った物と混用しても良いでしょう。

心配だという場合はベリマークのようにネオニコチノイド系薬剤では無い物を選択して最低3日前に処理するのが良いと思います。


11月以降に定植するセル苗で処理し、翌年のトンネルを外すタイミングから土寄せ1回目までの薬剤散布(通常散布)でパレードを用いる場合でも主力薬剤との混用散布は可能です(詳しくはメーカーさんで混用事例を取っていますので確認して下さい)。

パレード20フロアブルは安全性の高い薬剤なので、薬害リスクが低いといった特徴が有ります。
故に散布する場合でも多くの薬剤との混用が可能です。

一応一般的な注意点だけ付け加えておくと、メーカーさんの混用事例は1対1の事例で、大抵の場合は数回程度の事例しかとっていない場合がほとんどです。

品種格差や環境条件まで配慮されていない場合もありますので、高温時処理や軟弱気味状態での処理は避けるようにして下さい。
複数混用する場合は各メーカーで事例は取っていませんので注意して使いましょう。



まとめと補足

今回はパレード20フロアブルのセル苗灌注登録拡大にフォーカスして紹介してみました。

ネギの黒腐菌核病は、多くの生産者が困っている病害だと思いますので、新しい技術や製品が増えるというのは良い事ですよね。

コスト的に100倍希釈は高いなと感じてしまいがちですが、商品ロスを減らす為の投資として考えれば使ってみる価値はあると個人的には思います。

200倍ではダメなのか?という話が出そうですが、作物体内の残留濃度が変わってきますので、残効を含めブレが出ると思います。
適正濃度で使用するようにして下さい。


過去、プレバソンフロアブル5やジュリボフロアブルが発売された際に、1カ月の残効をメーカーさんがプッシュしましたが、1~2週間程度で作物が虫に食われてしまい大クレームが起こった事が有ります。
現在は生産者の方も使い慣れている為、ほとんど問題視されていませんが、当時は処理タイミングも曖昧でしたし、生産者側の処理量等の使い方の問題も有ったと思います。

パレードについても4カ月の間しっかり効けば本当に良い薬剤だと思いますが、先にも挙げたように、ネギの黒腐菌核病の対策は、農薬+耕種的防除でのダブル対策が重要です。

連作障害が起こっている圃場であれば、土壌消毒剤の利用であったり、農薬だけに頼らずに土壌改良剤の投入であったり、本圃の菌密度を減らす(本圃の土壌バランスを整える)取り組みも重要となります。


パレード20フロアブルの本格的な使用は晩秋に入ってからとなりますが、パレード20フロアブルは通常の散布場面においても葉枯病や黒斑病等に対しても使える薬剤ですので、ローテーション散布に用いて頂ければ良いかなと思います。


スポンサーリンク
Amazonでお勧めのネギ種を検索する
Amazonでパレード20フロアブルを検索する



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*