キャベツ・はくさい・レタス等の大型葉菜類に使用する殺虫剤(灌注剤)についてまとめます。

キャベツ・はくさい・レタス・非結球レタス等の大型葉菜の定植農薬と言えば、昨今は灌注剤がすっかり定着していると思います。


対象害虫で選ぶ人も居れば、剤型(ハンドリングの良さ)で選ぶ人も居ますね。
製剤によっては残効面も若干違ってきますし、コストも変わってきます。
そういった所で薬剤をチョイスしている人も居らっしゃるでしょう。


個人的には扱い慣れた物を利用するのが良いのでは?という考えも有るのですが、変に凝り固まるのもよろしくないので、今回はおさらいも兼ねてこれらの主力灌注剤についてスポットを当ててみようと思います。

今回は、キャベツ・はくさい・ねぎ・レタス・非結球レタス・ブロッコリー・カリフラワーのいずれかの登録を取っている主要な殺虫灌注剤についてピックアップしてみようと思います。


登録作物全体についてや、各登録の詳細については、個別にメーカー製品ページを見るなどしてチェックして頂ければ幸いです。


ガードナーフロアブルの灌注使用について

成分は、イミダクロプリド10.0%(アドマイヤー)とスピノサド10.0%(スピノエース)との混合剤。
IRACコードは4A(ネオニコチノイド系)・5(スピノシン系)

登録内容は変わる場合が有りますので、現行の登録内容についてはメーカーさん商品ページをご参照下さい。


■灌注作物:はくさい・キャベツ・ブロッコリー
100倍灌注/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/定植3日前~定植当日/灌注使用回数1回以内
■灌注作物:レタス
200倍灌注/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/定植3日前~定植当日(オオタバコガ登録使用は定植当日)/灌注使用回数1回以内

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ・アザミウマ類・アブラムシ類・イネドロオイムシ・イネヒメハモグリバエ・イネミズゾウムシ・ウンカ類・オオタバコガ・コナガ・ツマグロヨコバイ・ナモグリバエ・ハイマダラノメイガ・ハスモンヨトウ・フタオビコヤガ・ヨトウムシ


近年の灌注剤はジアミド系の薬剤が主力となっておりますが、この製剤は先にも挙げたようにアドマイヤー(ネオニコチノイド系)とスピノエース(スピノシン系)との混合剤で、他の製剤のようにジアミド系薬剤は含んでいません。

混合されている製剤の特徴として、アオムシ、コナガ、アブラムシ、ハモグリバエ等を得意とする製剤です。

登録内容はレタスのみ200倍となっており、レタスで使う場合はコスト面でも使い勝手の良い製剤となっています。


大型葉菜類の栽培において、抵抗性コナガやシロイチモジヨトウ等の問題はあれど、ジアミド系はまだまだ主力剤です。
特にシアントラニリプロール剤は、アザミウマやアブラムシに対しても効果がありますので、定植時の苗処理剤としては主力剤になってきます。

ですので、播種覆土以降の苗管理でミネクトデュオ粒剤等を処理した場合、定植時にもジアミド系、散布でもジアミド系といった具合に、ジアミド系薬剤を連用しがちになってしまうケースがあります。

抵抗性回避の為にわざと系統の異なるガードナーを使う方もいらっしゃいます。
私個人の意見としては、そういった使い方は良いチョイスだと思います。

使用上の注意点としては、高温条件下での処理や、軟弱気味の苗への使用は避けるといった内容が有ります。
アドマイヤーの成分を含んでいますので、他のネオニコチノイド系混合剤と同じように、処理してから長く置いてしまうと葉先に成分が移行してしまって縁枯れのような症状を起こします。
葉に黄色斑点が出る場合も有ります。

定植してしまえばその後の成長に影響は出ないとされていますが、苗段階のダメージは極力抑えた方が良いので、灌注処理してからの長期間放置は避けるようにしましょう。

残効期間は、チラシ等を参考にすると、多少の効果減はあれど処理後28日でも効果持続しているというデータを取っていますが、処理後2週間程度で次の散布に移行するくらいのスタンスで見ておくのが無難ではないかなと思います。



キックオフ顆粒水和剤の灌注使用について

成分は、クロラントラニリプロール4.0%(プレバソン成分)とジノテフラン15.0%(アルバリン成分)の混合剤。
IRACコードは28・4A(ジアミド系・ネオニコチノイド系)
メーカー商品ページ

■灌注作物:キャベツ・ネギ・はくさい・ブロッコリー・レタス・非結球レタス
100倍希釈灌注/定植前日~定植時/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(30×60cm・使用土壌約1.5~4.0L)当り0.5L/灌注使用回数1回以内

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ、アザミウマ類、アブラムシ類、アワヨトウ、イナゴ類、オオタバコガ、カキノヘタムシガ、カブラヤガ、カメムシ類、カンシャコバネナガカメムシ、ケムシ類、コナガ、コナカイガラムシ類、サトウキビチビアザミウマ、シロイチモジヨトウ、ナモグリバエ、ハイマダラノメイガ、ハスモンヨトウ、ハモグリバエ類、ヒメダイコンバエ、メイチュウ類、ヨトウムシ


メーカーチラシでは、チョウ目害虫・アブラムシ・ナモグリバエを3~4週間抑えると書かれていますが、生産現場の使用のブレであったり、その時々の害虫の発生状況によっては、2週間程度で次の薬剤ローテーションを検討しておく方が良いと思います。

灌注登録内容は定植時でもOKとなっていますが、クロラントラニリプロール(プレバソンの成分)をしっかり吸わせる為には、灌注処理後2日以上(最低でも丸一日)置いた方が良いです。

この製剤はガードナーフロアブル等と同じようにネオニコチノイド系の成分(アルバリンの成分)を含みますので、処理してしばらく苗を置いてしまうと、アルバリン成分が葉先に移行し縁枯れのような症状を起こします。
ジュリボフロアブル(片割れがアクタラ)についても同じことが言えます。

灌注処理をしてから長期間放置するという事は無いと思いますが、褐変が起こる前に定植する事をお勧めします。



ジュリボフロアブルの灌注使用について

成分は、チアメトキサム17.5%(アクタラ)とクロラントラニリプロール8.7%(プレバソン)との混合剤。
IRACコードは4Aと28(ネオニコチノイド系とジアミド系)
メーカー商品ページ

■キャベツ・はくさい・ねぎ・ブロッコリー・レタス・非結球レタス
200倍灌注/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(約30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/育苗期後半~定植当日/灌注使用回数1回以内

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ・アブラムシ類・オオタバコガ・カブラハバチ・カブラヤガ・キスジノミハムシ・コナガ・タネバエ・タマネギバエ・ナモグリバエ・ネギアザミウマ・ネギハモグリバエ・ネキリムシ類・ハイマダラノメイガ・ハスモンヨトウ・ヒメフタテンヨコバイ・ヨトウムシ


作業性の面を考慮して定植当日でも使える薬剤となっていますが、他と同じようにクロラントラニリプロールの吸収を考えると、処理してから2日程度は置いておきたい所です。

製剤の効果を充分発揮させる為には、当日処理ではなく、しっかり苗に成分を吸わせる時間が必要です。

しかしながらこの製剤はアクタラを含有していますので、ガードナーに含まれるアドマイヤー、キックオフに含まれるアルバリンと同じように灌注処理後数日放置してしまうと同じような薬害症状が起きます。

特に真夏の蒸散が激しくなる時期の使用は、成分移行も活発になりますので、高温条件下も重なると、場合によっては3日、4日くらいでそういった症状が出てきてしまうかもしれません。

灌注処理後1カ月間の残効をうたっている薬剤ですが、私が見ていて生産現場で安心して置いておける残効は、おおむね2~3週間程度だと思います。
害虫の発生状況を見ながら次のローテーション散布を検討して下さい。



プレバソンフロアブル5の灌注使用について

成分は、クロラントラニリプロール5.0%製剤
IRACコードは28 ジアミド系
メーカー商品ページ

■灌注作物:キャベツ
100倍灌注/育苗期後半~定植当日/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(約30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/灌注使用回数1回以内
500倍灌注/育苗期後半~定植当日/苗地床1㎡当り2L/灌注使用回数1回以内
■灌注作物:ねぎ・はくさい・レタス・非結球レタス・ブロッコリー・カリフラワー
100倍灌注/育苗期後半~定植当日/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(約30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/灌注使用回数1回以内

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ・アズキノメイガ・アワノメイガ・ウコンノメイガ・ウリノメイガ・ウワバ類・オオタバコガ・カブラハバチ・コナガ・コナジラミ類・シロイチモジヨトウ・シロオビノメイガ・ナガイモコガ・ナカジロシタバ・ネギコガ・ネキリムシ類・ハイマダラノメイガ・ハスモンヨトウ・ハモグリバエ類・ヒメフタテンヨコバイ・マメシンクイガ・ヨトウムシ


灌注についてこの製剤はネオニコチノイド系の薬剤は含んでおりませんので、処理して日数が経っても縁枯れのような薬害症状は起きません。

クロラントラニリプロールはネオニコチノイド系薬剤よりも吸収が遅いので、製剤の効果を充分発揮させる為には薬剤成分をしっかり吸わせる必要が有ります。
処理してから3日以上は置いた方が良いです。

地域性も有りますが、散布においては抵抗性コナガに対する効果は期待できない状況となっています。
灌注で使う場合は主にシンクイ(ハイマダラノメイガ)等の対策で用いるのが良いでしょう。

薬効については、他の製剤同様、能書上は3~4週間ある薬剤ですが、害虫の発生を見ながら次のローテーション散布を検討して下さい。




プリンスフロアブルの灌注使用について

成分は、フィプロニル5.0%製剤
IRACコードは2(B) フェニルピラゾール系

プリンスフロアブルは2023年現在、メーカー終売品目(廃盤)となっています。
※以下、過去記事文章


■灌注作物:キャベツ
100倍灌注/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(30×60cm、使用土壌約3~4L)当り0.5L/定植前まで/灌注使用回数1回以内
灌注ではなく散布登録としては、はくさい・ブロッコリー・カリフラワーがあります。

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ・アザミウマ類・アワノメイガ・オオタバコガ・キスジノミハムシ・コナガ・タマナギンウワバ・チュウレンジハバチ・テンサイトビハムシ・ネギアザミウマ・ハイマダラノメイガ・ミカンキイロアザミウマ


プリンスフロアブルは、キャベツ場面においては主にシンクイ(ハイマダラノメイガ)とコナガ場面を軸に使われている商材でした。
オオタバコガ等の大型チョウ目の登録も持っていますが、大型種は得意でない為、若虫が対象。
プリンスフロアブルを散布で使う場合においても、小型のチョウ目幼虫や若齢幼虫をターゲットに使用されていたような農薬で、どちらかといえば作の前半で使用するようなポジショニングが多い商材でした。

プリンスフロアブルは水溶解度が低い製剤ですので、灌注で使った場合、培土の吸着性は良い製剤です。
残効としてはおおむね2週間くらいという印象です。





ベリマークSCの灌注使用について

成分は、シアントラニリプロール18.7%
IRACコードは28 ジアミド系
メーカー商品ページ

■キャベツ・はくさい・ねぎ・レタス・非結球レタス・ブロッコリー・カリフラワー

400倍灌注/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(約30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/育苗期後半~定植当日/灌注使用回数1回以内

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ・アザミウマ類・アブラムシ類・ウワバ類・オオタバコガ・カブラハバチ・コナガ・コナジラミ類・シロイチモジヨトウ・シロオビノメイガ・タネバエ・タマネギバエ・ネキリムシ類・ハイマダラノメイガ・ハスモンヨトウ・ハモグリバエ類・ヒメフタテンヨコバイ・ヨトウムシ


ベリマークSCは、プレバソンやフェニックスより後発のジアミド系薬剤です。
ネオニコチノイド系の薬剤を含んでいませんので、灌注処理してから定植が遅れてしまったとしても葉面褐変といった薬害は出ません。
安全性の高い薬剤となっています。

ベリマークSCの成分は、ベネビアODやプリロッソ粒剤、ミネクトデュオ粒剤の成分と同じ成分が使われています。

クロラントラニリプロールよりもシアントラニリプロールの方が吸収としては少し早い傾向は有りますが、十分作物体に成分を吸わせる為には、やはり灌注後2日以上は置いておきたい所です。

余談ですが、ネギの黒腐菌核病対策として、パレード20FLはネギのセル苗灌注登録を持っています。
パレードの成分を充分吸わせるためには処理後3日以上は置いておくのが良いとされていますので、長く置けるという面で考えるとベリマークSCはパレードとの相性は良い薬剤と言えるでしょう。
パレードのネギセル苗灌注については、過去記事でも取り上げています。



ヨーバルフロアブルの灌注使用について

成分は、テトラニリプロール18.2%
IRACコードは28 ジアミド系
メーカー商品ページ

●キャベツ・はくさい・レタス・非結球レタス・ブロッコリー
200倍灌注/セル成型育苗トレイ1箱またはペーパーポット1冊(約30×60cm、使用土壌約1.5~4L)当り0.5L/育苗期後半~定植当日/灌注使用回数1回以内

■登録作物全体を通して取得している害虫
アオムシ・アザミウマ類・アブラムシ類・アワノメイガ・ウコンノメイガ・ウリノメイガ・ウワバ類・オウトウショウジョウバエ・オオタバコガ・カキノヘタムシガ・ギンモンハモグリガ・キンモンホソガ・クロバネキノコバエ類・ケムシ類・コガネムシ類・コナガ・コナジラミ類・シロイチモジヨトウ・シンクイムシ類・チャノキイロアザミウマ・チャノコカクモンハマキ・チャノホソガ・チャノミドリヒメヨコバイ・チャハマキ・ネギアザミウマ・ネギコガ・ネキリムシ類・ハイマダラノメイガ・ハスモンヨトウ・ハマキムシ類・ハモグリバエ類・ヒメボクトウ・マダラカサハラハムシ・マメシンクイガ・モモハモグリガ・モンキクロノメイガ・ヨトウムシ・ヨモギエダシャク


ヨーバルフロアブルについては、過去記事でも取り上げていますが、ベリマークSCより後発のジアミド系殺虫剤です。
オイルベース商材では無いという事も有り、安全性が高い薬剤で、根からの吸上げの良い殺虫剤です。

ベリマークSC同様、灌注後に日数が経過してしまっても、ネオニコチノイド系薬剤のような葉縁褐変等の薬害は起こりません。

育苗期後半から定植当日という登録内容となっていますが、やはり十分成分を吸わせることを考慮すると、当日処理よりは1日ないし2日前の処理をお勧めしたいところです。

チョウ目害虫やハモグリバエ類についての効果は非常に高い薬剤です。



まとめと補足

今回は、大型葉菜類で良く使われる定番の殺虫灌注剤についてまとめてみました。

作業の都合上、定植当日といった登録を取っている薬剤が多いですが、ジアミド系薬剤については、十分な吸上げと効果を発揮させる為に、3日程度は処理後置いておくと本来は良いとされています。

セルトレイ等に処理された薬剤は培土に吸着はしますが、処理後すぐに定植されてしまうと、土がばらけて作物の根から有効成分が離れてしまい作物体に十分吸い上げられない場合が有ります。

特に秋作は、本圃土壌の乾燥、定植後の回し水、乾燥対策での潅水を行う事が有りますので、そういった懸念が高くなります。

ネオニコチノイド系の薬剤を含有する物は葉縁の褐変や葉面変色等の薬害リスクが有りますので長期間置く事はできませんが、「できるだけ残効を考慮したい」という場合は、灌注処理直後の定植は止めておきましょう。


農薬の登録上は、じょうろ等を用いた灌注使用を想定していますが、現場では桶などに薬剤を希釈しておいてドブ漬けするといった使い方もよく行われています。

ドブ漬けする場合は、薬剤効力がブレる傾向が有りますのであまりお勧めしません。

理由としては、セルトレイ灌注の場合、1トレイ当たりの灌注水量が決まっていますが(1トレイおおむね500CCくらい)、ドブ漬けした場合、十分吸水できない場合が想定されます。

また、培土にも水分を含んでいますので、何枚もトレイを漬け込むことで薄まっていく事も想定されます。

もう一点、ドブ漬けを避けて欲しい理由があります。

無消毒のトレイは、底面に雑菌などが付着している場合も有ります。
その場合、水に漬け込む事で他のトレイにも雑菌が広がる原因となります。


ドブ漬けする場合は、トレイは新品の物か、しっかり消毒した物を使うようにし、希釈桶は一度だけの使い切りにはせず、複数回に分けて作り直し使用するようにすれば回避できると思います。
漬け込む時間についてもしっかり培土に染み込むように調整しましょう。


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