水田のウンカ類でお困りの方へ! 新規箱処理剤成分「ゼクサロン(ピラキサルト)」を含む考察と既存の箱処理剤についてレビューします。

水稲(稲作)で問題となっている害虫は多々存在しますが、近年、関東圏で問題となる害虫はウンカ類が主軸です。

今回は、ウンカ類対策の薬剤(主に箱処理剤)にフォーカスしてみようと思います。


水稲を加害するウンカ類の種類等について

ウンカ類には、大きく3つの個体が存在します。

①トビイロウンカ
あまり移動しない為、株あたりの寄生数が増える傾向にあり、特に出穂期以降に多発すると、坪枯れ被害が起こります。
梅雨時期にジェット気流に乗って中国大陸から移動してくる害虫で、元々が熱帯地域で生息している害虫です。
温度が高いほど生育が早く、増殖サイクルも非常に速いといった特徴が有ります。

②セジロウンカ
こちらの個体も梅雨時にジェット気流にのって中国大陸から移動してくることがわかっています。
日本国内では夏ウンカともよぼ有れています。飛来数はトビイロウンカより圧倒的に多いのですが、出穂以降の圃場定借性が弱い傾向にあり、収穫期に近づくにつれて圃場外へ飛び立っていく事がわかっています。坪枯れのような大きな被害は出ないものの、飛来の数が多い年には出穂期前の稲の生育に影響を与える為、圃場全体が黄化する事が有ります。

③ヒメトビウンカ
ヒメトビウンカは日本国内で幼虫が越冬しており、イネ縞葉枯病というウイルス病を媒介するする害虫です。
ちなみに、トビイロウンカやセジロウンカは越冬不可能とされています。

一般的にウイルスを持ったヒメトビウンカが、麦畑等で増殖し、稲作が始まってくると水田へと移っていきます。
ヒメトビウンカは吸汁する口が長い為、イネの導管などに直接長い口(口吻(こうふん))を刺し込んで水分や栄養分を吸い取ります。
この際に保毒しているウイルスが稲体内に入り込み縞葉枯病に感染します。

ヒメトビウンカは稲意外だと特に麦を好みます。
イネ科雑草等にも寄生する為、稲作時期は、畦畔にイネ科雑草を生やさない・残さないように、雑草防除がとても重要となります。



ウンカ登録のある水稲箱処理剤の種類や効果面について。

ウンカに効果が有る箱処理剤としてはいくつかの主力系統が有ります。

以下は2019年時の物となりますが、JA向けメーカーが販売している品目や、JA以外の商人系業者(小売店やホームセンター、農家の店)等でも販売されている主力剤の多くは、ネオニコチノイド系統(IRACコード4A)の箱処理剤とピリジンアゾメチン誘導体(IRACコード9B)を含む物が多い傾向にあります。

以下、代表的な箱処理剤をいくつかピックアップしてみます。

※農薬の登録内容は変わる事が有りますので、ご利用の際は事前に登録内容を確認するようにして下さい。

アドマイヤーCR箱粒剤(IRAC:4A)
使用時期:は種時(覆土前)~移植当日
有効成分の溶けだし方がコントロールされている為、残効目安としてはおおむね50~60日程度となります。

アトラクトン箱粒剤(JA品はスターダム箱粒剤)(IRAC:4A)
使用時期:移植3日前~移植当日
アルバリン(スタークル)の成分を高含有している箱処理剤で、残効目安はおおむね90日程度です。 個体差はありますが、アルバリン剤は甲虫にたいしても効果が有りますので、カメムシ時期まで防除できる利点が有ります。

アルバリン箱粒剤 (IRAC:4A)
使用時期:は種前・は種時覆土前~移植当日
箱処理剤向けに処方されたアルバリン(スタークル)剤で、残効目安はおおむね50日前後といったところ。

スタウトダントツ箱粒剤(IRAC:4A・FRAC:P03)
使用時期:は種前・は種時(覆土前)~移植当日
いもち病抵抗性誘導体の成分を含有した箱処理剤で、片割れはダントツ剤です。
残効目安はおおむね50日~60日といったところ。
スタウトダントツは08タイプもありますので、ダントツ成分の含有率が高ければ高いほど、残効に差が出ます。

フェルテラスタークル箱粒剤CU(IRAC:4A・28)
使用時期:は種前・は種時覆土前~移植当日
ジアミド系殺虫剤+アルバリン(スタークル)剤の混合剤。
残効目安はおおむね60日程度です。

フェルテラチェス箱粒剤(IRAC:9B・28)
使用時期:は種時(覆土前)~移植当日
ジアミド系殺虫剤+チェスの混合剤。
こちらの残効もおおむね60日程度です。

ミネクトスター顆粒水和剤(IRAC:9B・28)
使用時期:移植7日前~移植当日
希釈して処理するタイプの省力型箱処理剤。
1袋500g規格(約1町分の規格)。
残効目安はおおむね60日程度。

ワンリードSP箱粒剤(IRAC:4A・5)
使用時期:は種前・は種時(覆土前)~移植当日
コチラはダントツとスピノエースとの混合剤。
残効目安はおおむね60日程度。

残効期間とは、薬剤を処理してからの日数です。
メーカーさんのチラシや試験事例から検討した数値になります。
メーカーさんが捉える残効とは前後する所も有ると思いますので参考程度に判断下さい。
処理した時の条件(温度や土の水分量等)、培土の品質、虫の発生数、処理後の天候等によって残効はブレる傾向がありますので、100%その日数まで薬効が続くというメーカー保証の日数ではなく、一応の目安となっています。
詳しく知りたいという方はメーカーさんのサポートへご相談頂ければと思います。


箱処理剤は地域性も有りますので、上記以外の箱剤を押している所もあるでしょう。
殺菌剤との混合剤も無数にある為、挙げれば切りがないくらい種類が有ります。

ウンカを必ず対象に含める場合、昔のようなダントツ粒剤3㎏やオンコル粒剤3㎏での箱処理では十分な防除ができない現状にあります。
また、上記のような箱処理を用いても、100%ウンカが防除できるわけではありません。
発生密度、飛来密度が多ければ多いほど、箱処理剤+αの防除が必要となってきます。


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ウンカ類にはネオニコチノイド系の殺虫剤は効かないのか?

近年、ネオニコチノイド系の殺虫剤は、ウンカ類に効かないのではないか?という話が増えてきています

実際に、他県では薬剤の感受性が低下しているという話も出ておりますし、フィプロニル剤等の抵抗性が確認されています。

ウンカの種類にもよると思いますが、飛来数の多い地域(例えば九州方面や西日本エリア)ではリスクは高いと思いますので、薬剤抵抗性の案内などが農業普及所、JA、販売店などから発信されていると思います。

直ぐお隣の件では全然効かないらしいけど、うちの県は大丈夫なの!?というケースもあるでしょう。
販売シェアの高い薬剤が主軸になっていると、どうしてもメーカー都合なども実際あると思いますので、情報発信が見られない場合は、各県の情報機関へ問い合わせをしてみるのも良いでしょう。


抵抗性害虫や新規外来種、抵抗性雑草の分布は流通に乗ってしまうとものすごいスピードで広まりますので、ウンカに対するネオニコチノイド系薬剤の感受性低下については今後も注意が必要です。


あくまで私個人の見解としてですが、現在使っている薬剤で全く効果が出なかったという事が無い限りは無理して薬剤を変える必要は無いと考えます。

作付けしている品種によってはそれが必要ない場合も有るでしょうし、薬剤コストにも影響すると思います。

「どうしても信用ならん!」という方であれば、試しに使っている薬剤系統を変えてみるのも有りでしょう。



水稲箱処理剤・ゼクサロン剤について

ゼクサロン剤は、農薬の原体メーカーであるデュポン・プロダクション・アグリサイエンス(株)とJA全農が共同開発したウンカ専門剤です。

有効成分名は、トリフルメゾピリム(通称ピラキサルト)と言います。
水稲の重要病害であるウンカ類・ツマグロヨコバイに対して優れた防除効果と長い残効性を示します。

IRACグループだと、4Eというグループに分類分けされます。
IRACグループの4グループという事は、大きなくくりだとネオニコチノイド系統に近いグループ殺虫剤という事になりますが、効き方はネオニコチノイド系とは少し異なります。

ゼクサロンの作用点はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)競合的調節であり、作用機構は神経作用です。
既存のネオニコチノイド系統薬剤が神経の異常興奮を引き起こして殺虫するのに対して、ピラキサルトは疎外的に作用し脱感作状態を引き起こして殺虫します。

※脱感作:抗原の量をごく少量から始めて、次第に増加して過敏性を減弱させること

ピラキサルトはウンカ類に対して低薬量で優れた効果と長い残効性を示します。
残効はあくまで目安ですが120日程度です。



ピラキサルトを処理する事で抑制効果が期待される水稲の虫媒伝染性植物ウイルスについて

ピラキサルトを処理する事で、以下の媒介虫による病害抑制が期待されます。

ヒメトビウンカ:イネ縞葉枯病ウイルス(Rice stripe virus)(分類:テヌイウイルス)

セジロウンカ:イネ南方黒すじ萎縮ウイルス(Southern rice black-streaked dwarf virus)(分類:レオウイルス)

トビイロウンカ:イネラギッドスタントウイルス(Rice ragged stunt virus)(分類:レオウイルス)

トビイロウンカ:イネグラッシースタントウイルス(Rice grassy stunt virus)(分類:テヌイウイルス)

ツマグロヨコバイ:イネツングロ杆菌状ウイルス(Rice tungro bacilliform virus)(分類:カリモウイルス)



トリフルメゾピリム(ピラキサルト) を含む製剤の種類(品名)について

2019年時、トリフルメゾピリム(ピラキサルト)を含む製剤としては、以下の商品が発売または発売予定となっています。

クミアイ化学(JA品)
フルスロットル箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+シアントラニリプロール(チョウ目)+イソチアニル(いもち病)+ペンフルフェン(紋枯病))
ゼクサロンパディート箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+シアントラニリプロール(チョウ目))
アンコール箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+トリシクラゾール(いもち病))

協友アグリ(JA品)
防人箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+イソチアニル(いもち病))

北興化学(JA品)
スクラム箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+イソチアニル(いもち病)+ペンフルフェン(紋枯病))
ビルダーフェルテラゼクサロン粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+プロベナゾール(いもち病))
フェルテラゼクサロン箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目))

住友化学(商人系)
箱維新粒剤/箱将軍粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+イソチアニル(いもち病)+フラメトピル(紋枯病))

三井化学アグロ(商人系)
サンスパイク箱粒剤
(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+トロプロカルブ(いもち病))
サンエース箱粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+トロプロカルブ(いもち病)+シメコナゾール(紋枯病))

日本農薬(商人系)
ブイゲットフェルテラゼクサロンL粒剤(トリフルメゾピリム(ウンカ)+クロラントラニリプロール(チョウ目)+チアジニル(いもち病))


今後も色々な薬剤展開をしていくと思いますが、全農とデュポンとの共同開発という事もあり、JA品は必要最低限の「ウンカ+チョウ目」の成分商材がありますが、商人系については、「ウンカ+チョウ目+いもち」という3成分剤またはそこに紋枯病剤が加わった4成分剤のラインナップになってしまいます。

ちなみにゼクサロン剤(ピラキサルト)単剤の商品は有りません。


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そもそもゼクサロン(ピラキサルト)剤以外の物はダメなのか?

ゼクサロン剤の本格販売(生産現場への導入)は、2020年度の水稲時期からとなります。
事前の試験データ、残効面などを見ると、確かに良い成分だと思いますし、現場需要も高く、JAのプッシュが中心となりユーザー数は伸びていくと思われます。

商人系の販売店もJA品と同じ2成分剤であれば積極的に売っていきたい薬剤でしょう。

しかしながら、ウンカが多発してしまうような環境下だとどうなのか?
やっぱり空中散布や動噴による散布が必用なの?
いっそのことウンカ抵抗性品種に切り替えちゃえば?
最近はカメムシ被害も多いし、そもそもウンカ専門剤なのでカメムシには効果ないじゃん?

といった問題や対策も出てくるわけです。

ですので、コスト面や現状使っている商材の満足具合などを見ながら変更が必要なのであれば切り替えるといった手法で行けば良いのかな?と私個人としては考えます。

120日以上の残効が有ってもカメムシに対して全く効果が無いのであれば、カメムシ時期まで多少狙う事ができるアトラクトン(スターダム)箱粒剤でも十分かな?という感じもしますし、そもそも薬剤コストをかけたくないという方であれば、ウンカの初期発生時期だけ抑える事を狙って、アドマイヤーCRやアルバリン箱粒剤を使うというのも有りでしょう。

良い薬である事は間違いないと思いますが、ある程度慎重に吟味してからでも遅くないかなぁという感じですね。


まとめ

以上、水稲箱処理剤についてと、ゼクサロン剤(ピラキサルト)について紹介させて頂きました。
今後も情報がまとまり次第、色々な薬剤についてご紹介していければと思います。

ゼクサロン剤(ピラキサルト)は、これからの現場のフィードバックや展開が楽しみな所ではありますが、ご自身の作付けスタイルに合わせて薬剤選定して頂ければ幸いです。


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