農業向け無人航空機(ドローン)による農薬散布等の取組状況について(2019年~レビュー)

主に米麦を中心とした生産現場において、農業用無人航空機(ドローン)の導入が増えつつある今日この頃。

大手メーカー品に限らず、ベンチャー的な介入もある昨今、「ちゃんとしたドローンは持っていないけれど、興味はある!」とか、「操縦資格を取ろうかな?」という方もいらっしゃると思います。

新年度になり、改めて現在の状況について振り返ってみようと思います。


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航空法の対象となる無人航空機とはどんな物を指すのか?(2019年~)

改めて、無人航空機ってどんなものなの??という部分についておさらいしておきましょう。


航空法の対象となる無人航空機とは、飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって、人が乗る事ができない物のうち、遠隔操縦又は自動操縦によって飛行させることができる物で、機体本体の重量とバッテリーの重量の合計が200g未満の物を除く物を指します。



国土交通省が提唱している、無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の安全な飛行に向けての注意点について

国土交通省が提唱している無人航空機を飛ばすに当たっての注意点がいくつかあります。
これはドローンを扱う上で厳守する決まりとなっています。


まずは「無人航空機の飛行禁止空域」についてですが、以下3つの飛行禁止空域が有ります。

①空港周辺
②150m以上の上空
③人家の密集地域

人家の密集地域の上空で無人航空機を飛行させる事は原則禁止されています。
人家の密集地域とは、具体的には国勢調査の結果による人口集中地域(DID)となっています。
より詳しく知りたいという方は、国土交通省の航空局HPに明記が有りますのでチェックしてみて下さい。

これらの禁止空域で無人航空機を飛行させたい場合には、国土交通大臣の許可が必要となります。

また、無人航空機の飛行の方法についても注意点がいくつかあります。

①飲酒時の飛行禁止
②非行前確認
③衝突予防
④危険な飛行禁止
⑤日中(日出から日没)での飛行
⑥目視(直接肉眼)の範囲内での飛行
⑦距離の確保(人・物件・自動車等から30m以上の距離を保つ)
⑧催し場所での飛行禁止
⑨危険物輸送の禁止
⑩物件投下の禁止

①~⑩の方法によらずに飛行(例えば夜間飛行や目視外飛行、農薬や肥料等の投下(物件の投下)を行いたい場合は、国土交通大臣の承認が必要となります)

当然、これは法律で規定された内容になりますので、違反した場合は罰金刑となりますので、面倒でも守らなければなりません。



空中散布従事者の登録状況について

平成31年3月末時点の「空中散布従事者(登録代行機関調べ)」によると、無人ヘリコプターの登録数は約2800機。
認定操縦者は約10,000人。

マルチローター(ドローン)の登録数は約1500機。
認定操縦者は約5,800人とされています。


登録されている無人航空機の登録数が1500機というのはかなりの伸び率ではないでしょうか…?
それだけ関心が増えているという事が伺えます。

法整備が完全に整っているわけではありませんので、もぐりの個人使用者なども含めるとかなりの数になるのではなかろうか…という感じです。


マルチローターは病害虫の防除だけでなく、種まきや肥料散布などにも活用する事ができる為、農作業の効率化と低コスト化に貢献できると考えられています。
中山間地や野菜や果樹、園地での利活用も期待されている状況です。



H27年12月以降の改正航空法施行以降の対応について

改正航空法の施行によって、無人航空機(ドローン)で物件の投下(農薬散布や肥料の投下等)を行う場合には、必ず国土交通大臣から、事前の許可・承認を受ける事が必用となっています。

航空法に定める「飛行禁止空域」における飛行、「飛行の方法」によらない飛行を行おうとする場合、飛行開始予定日の少なくとも10日(土日祝日等を除く。)までに国土交通省へ申請が必要となります。

申請だけでなく、許可・承認が必要となる為、ギリギリで申請するのは基本的にはやめておいた方が良いでしょう。


改正航空法施行後、無人航空機(ドローン)を使って防除を行う人の許可・承認手続きが過重にならないように、農林水産省と国土交通省の間で協議を行いました。
これによって、空中散布における無人航空機利用技術指導指針に基づいて、消費・安全局長が登録する登録認定等機関による操縦者の認定と機体登録、これらを利用した代行申請手続きを定め、申請手続きの簡素化を図っています。



農業用ドローンの利用拡大に向けた規制の見直しと昨今の取り組み状況について

農業現場では、主に水稲を中心に活用されているドローンですが、農作業の省力化や効率化を図る為に、ドローンに対する期待感が非常に高まってきています。

こうした背景から、H30年6月に、農業用ドローンの利用拡大を図る為に、作業する際の補助者の配置義務などの妥当性や代替手段を検討する事が閣議決定されました。

その内容として議題の中心となったのは、主に以下の3点です。

① 補助者(ラインズマン・ナビゲーター)の配置義務について
② 目視外飛行時の基準について
③ 最大離陸重量25Kg以上の機体に要求される機能・性能基準について

水田は今や1枚当たりの面積が1ヘクタールという規模が平均的になってきています。
無人ヘリの場合には、機体も大きくプロポでの操縦(手動)となる為、操縦者の技術レベルによっては墜落や電線を切ってしまうといった事故があり、事故の規模が大きくなる場合が有ります。
ですので、補助者(ラインズマン・ナビゲーター)の設置は必要でしたが、ドローンの場合は、技術が年々向上しており、全自動操縦が主流になりつつある今、補助者は必要なのか?という問題がありました。
仮に補助者が不要となった場合、目視できる範囲を超えた飛行となる為、それ相応の基準が必要となるわけです。

また、最大離陸重量25Kg以上の機体は、ドローンというよりは無人ヘリ等を指しますが、これらについての妥当性や代替え手段の検討、措置が必用という考えがありました。

これらを踏まえ、最近の航空防除を巡る情勢としては以下のようになっています。

① 補助者配置義務
一定の要件を満たす事(飛行する農地の周辺に立入管理区画を設置する事)で、操縦者の他に補助者を配置しなくても良いという事になりました。

飛行承認申請を行う申請者の参考として、国土交通省のWebサイトに「新たな飛行マニュアル」が掲載されています。

② 目視外飛行時の基準
補助者を配置せずに行う目視外飛行で必要とされている有人機の監視を不要とし、夜間における飛行においても同様とする。

①と同様に、措置内容は「飛行マニュアル」に追記。

③ 最大離陸重量25Kg以上の機体の機能・性能基準
現行機種の多くで、機体重量にかかわらず基準をクリア済みであり、大型機開発の抑制要因とは言えない事から見直しは行わない事となった。


「飛行マニュアル」とは、無人航空機を飛行させる際に必要となる手順などを記載するもので、航空法に基づく許可・承認をうける申請書への添付が求められています。
農薬の散布について想定した上記の飛行マニュアルが国土交通省のWebサイトに掲載されれば、申請者はこれを利用し円滑な許可・承認を受ける事ができます。また、このマニュアルを使用せず他の方法による事も可能で、その場合は国土交通省において個別に当該方法の安全性などを審査する事となります。



H30年11月には、技術指導指針に基づき登録された民間機関が行っていた機体の性能・性能の確認、操縦者の技術認定等の業務は法的根拠が明確ではなく、航空法上の義務を課したものでは無いといった指摘や情勢を踏まえ、技術指導指針に基づく運用にあっては、航空安全に関する事項の手続きは国土交通省による手続きに一元化する事とし、令和元年7月に規制の見直しを行い推進体制の整備を行っています。

幣制30年11月19日時の規制改革推進に関する第4次答申を踏まえた取り組み状況については以下のような内容となっています。

■航空法に基づく規制について
①「技術指導指針」は廃止。
但し、農薬安全にかかわる事項は、空中散布ガイドラインを新たに策定(農水省において空中散布ガイドラインを策定)。

②農水協のオペレータ認定と機体認定の義務はないという旨を関係者へ通知。

③無人ペリコプターの規制について
航空安全は「審査要領」または「両省の共管通知」で規制
⇒両省の共管通知に機体認定等の航空安全にかかわる事項を規定。

農薬の安全については、農水省が新たにガイドラインを作成。

都道府県・地区別の協議会などへの警告は、必要最小限でオンライン化。
⇒都道府県・地区別協議会などの規定は廃止し、警告は直接都道府県に行う事とし、報告事項を見直すとともに電子メールでの報告が可能に。

④無人航空機(ドローン)について、ディーラーやメーカーなどに顧客の代行申請を行うよう促す。
⇒説明会などを利用して、ドローンメーカーや農薬販売業者などに対して「技術指導指針」廃止後においても、国交省の審査要領に基づく代行申請が可能である旨を周知し、その利用を促す。


要点だけ紹介すると、無人航空機(ドローン・ラジヘリ等)の申請等の窓口は国土交通省に一本化されました。

無人航空機(ドローン・ラジヘリ等)の散布従事者は、事前に国土交通省へ、農薬散布の計画の申請を行い、散布後も散布実績の報告を行わなければなりません。

ただし、ラジヘリに関しては、従来の流れを保持する流れとなっている為、国土交通省だけでなく、農林水産省に対しても散布計画の提出、散布後の実績報告が必要となっています。


その他に、農薬取締法に基づく規制についても話が行われている状況です。
こちらについては、生産者向けというよりはメーカー向けの内容となっていますので、簡単に内容だけ触れておきます。

■農薬取締法に基づく規制について
①農薬等の「散布」、「雑草茎葉散布」等でドローンを使用するかどうかは、農薬使用者の判断に任せる旨、解釈を明確化し通知

②既存の散布用農薬の希釈倍数をドローンに適した濃度に見直す変更登録申請の場合は、作物残留試験を不要とする。

ドローンを含め農薬散布に当たり使用する散布機器は使用者の自律的な判断に任される事。
ドローンに適した濃度で使用する変更の登録申請においては、作物残留試験の追加提出を要しない事。
ドローン散布農薬に対する現場ニーズを各都道府県からメーカーに通知し、登録申請の検討を促す。
特にニーズの高い農薬については、メーカーと個別に産地とのマッチングを実施する。

といった事について取り組んでいる状況です。



ドローン用農薬の登録促進についての対応について

農薬の空中散布剤については、米麦を中心に無人ヘリコプターによる散布が中心となっていますが、より小型で取り扱いが容易であるドローンへの利用拡大が必要となっており、高濃度かつ少量で散布できる農薬の拡大が求められています。

現在そういった農薬は、米麦を中心に登録を持っている物もありますが、野菜や果樹などについては使用できる農薬が限定的です。

市場に出回っている地上散布農薬の多くは、ただ作物に付着する作用だけしかない物、作物に付くと葉表から葉裏に抜ける浸達作用のある物、作物体内を移行する物などがあります。

殺虫剤にしても殺菌剤にしても、作物に少量散布する事を前提とすると、移行性の有無というのはかなり重要となりますし、高濃度散布された付着部分に薬害を生じないか?といった問題なども有ります。
少量散布で防除効果をどこまで高める事ができるのか?についても重要課題です。
有効成分の作物残留や環境影響、生物影響等についても調べていかなければなりません。
相当な金銭と時間、労力が伴う為、メーカーもホイホイと簡単にドローン用の農薬を出せない現状にあります。

現状としては、都道府県からのドローン農薬に対する現場ニーズを農薬メーカーに通知して登録申請の検討を促すとともに、特にニーズの高い農薬について産地とメーカーとのマッチングを実施する事によりドローンに適した農薬の適用拡大を推進しようという動きがあります。


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小型無人航空機に関する関係省庁の動き、環境整備について

平成27年4月、首都官邸におけるマルチローターの発見事例により、小型無人航空機を利用したテロなどに対する警備体制の強化や小型無人機の運用ルールの策定と活用について、関係行政機関での連協と協力を図っていく為に「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議」が設置され、航空法が改正されました。

冒頭書いたように、無人航空機を飛ばす際の基本的なルールが定められました。

平成27年12月からは民間を含めた「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」において、細かいルールやロードマップ等が取りまとめられ、2022年までには有人地帯での目視外飛行を行う為、関連施策毎に目標が設定されているところです。

無人航空機による農薬などの空中散布については、今後も安全かつ適正な推進が必要となっている現状です。


まとめ

法的な内容を含む為、文面だけピックアップすると頭に入りにくいですよね。

現在、農薬や肥料を散布するドローンの積載量は様々ありますが、比較的新しい物は10L前後のタンクの物が主力になっているのではないかと思います。

完全自律運転、自動測量による適正散布機能等、ドローン性能は年々向上しておりますが、機体金額は高額です。

航空時間、バッテリーの持ちについても色々ありますが、こちらについてはまだ物足りないといった所でしょうか…

とはいえ技術の躍進は目覚ましい物が有りますので、より普及が進んでいけば価格帯も今まで以上に手の届きやすい物になっていくのではないかな?とも思いますし、使用できる農薬なども増えてくるのではないかなと思います。

先行しているDJIをはじめ、ドローンメーカーは多々ありますが、最近では農薬メーカーのバイエルクロップサイエンスがXAGとのコラボも発表となり、農薬メーカーもビジネスチャンスを広げようと必死のようです。

シンジェンタ、日本農薬、OAT、その他のメーカーについてもドローン分野については既に取り組みを始めています。
今の所は水稲分野が主体となっており、記事中盤に記載した課題等も有り、野菜や果樹についてはまだまだ時間を要すと思われます。

現在は変革時期の為、法的内容を含め今後また違った整理、整備がされていくと思われますが、詳しい情報などは国土交通省のHPや農機具メーカーのHP、あるいは農薬メーカー、取扱店等で定期的にチェックしてみて下さい。

あくまで個人的な感想ですが、大型生産法人の独自の利用であったり、業者による請負であったり、あるいは代理店やメーカーなどが直接介入するような場面も先々出てくるかもしれません。
そのくらい目まぐるしく変化しそうな感じがします。


繰り返しますが、現在、農薬・肥料・種等、ドローンを用いて物(物件)を投下する場合は、事前の申請と許可・承認が必要となります。

事前申請、許可・承認なく物件投下で使用する場合は、現在時では法律違反となります。

天候の影響も受けますので、なかなかピタピタで散布するのは難しい事もあると思いますが、守らない場合は罰金扱いとなってしまいますので、十分注意が必用です。
「俺がルールだ!」という方も世の中いらっしゃると思いますが、見せしめで逮捕されたり告げ口されたりなんて事も有るかもしれませんので、つまらないトラブルにならないよう、面倒でも必要な手続きは行うようにしましょう。

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