サフオイル乳剤と鉄力トレプラスは、農薬メーカーOATアグリオ㈱の製品です。
殺ダニ作用(卵~成虫まで)のある殺虫剤「サフオイル乳剤」については、過去記事の物理防除農薬の特集でご紹介した事が有りますが、今回は少しだけ掘り下げて、サフオイル乳剤の潜在的な効能と、二価鉄・微量要素・トレハロースを含有した混合液肥「鉄力トレプラス」について紹介していこうと思います。
サフオイル乳剤のターゲットは、主に果菜類のハダニ類とコナジラミ類対策という部分になってしまいますが、1Lという規格で見ると、「農薬は高くて買えない、使いにくい!」という家庭菜園の方にもお勧めしやすい商材です。
同じ様に鉄力トレプラスについても、高額な液肥にも含まれる二価鉄やトレハロースが含まれている割には、比較的低コストな商品となっており、微量要素欠乏対策としても使える液肥となっています。
規格は1Lで、こちらも家庭菜園の方にお勧めしやすい商材です。
連続散布が効果的な商材ですが、定期的に利用する事で、昆虫媒介によるウイルス病対策や、秀品率のアップにつなげる事ができます。
目次
サフオイル乳剤はハダニ類に対して残効性を示す
物理防除剤である(害虫が呼吸する部分「気門」を抑え込む「封鎖する」事で殺虫効果を示す)サフオイル乳剤は、ハダニ類に対して残効性を示すというデータが有ります。
その前に、サフオイル乳剤の成分と、殺卵活性のメカニズムについて触れておきましょう。
サフオイル乳剤は、調合油(サフラワー油及び綿実油の合量として)97.0%の製剤です。
サフラワー油と聞くとわかりにくいかもしれませんが、ベニバナ油の事ですね。
よくわからない化学的な農薬は嫌だという方も多いと思いますが、物理防除剤のいくつかは、このような植物性の油を主原料としています。
サフオイル乳剤を葉面に処理すると、葉面に産み付けられたハダニの卵の表面や周囲の糸に膜をはったように付着します。
※画像はサフオイル乳剤チラシより抜粋
画像左の蒸留水を散布した時には何も膜らしき物は見えませんが、画像右のサフオイル乳剤を処理した方は、うっすらとした膜のような物で覆われているのがわかります。
ハダニが孵化しようと卵を破り出ようとする時に、サフオイル乳剤が卵内に入り込んでラッピングする為、ハダニは孵化できずそのまま死んでしまいます。
※画像はサフオイル乳剤のチラシより抜粋。
これがサフオイル乳剤の主な殺卵作用です。
一般的な物理防除剤(気門封鎖系)の殺虫剤は、今まさに動いているハダニ類に対して薬剤を付着させて気門を封鎖する事で殺虫するといった作用が強い為、効果としては単発で残効が短いといった特徴が有ります。
ですので、これらの薬剤に頼る時は、おおむね3~4日程度の間隔で複数回散布する事が前提となります。
また、これらの薬剤は、薬液が虫に直接付着しなければ殺虫効果を示しませんので、葉裏まで丁寧な散布が必用となります。
殺卵作用についても、全ての物理防除剤(気門封鎖剤)が殺卵作用を有するわけではありません。
「虫に直接かからなければ効果が発揮できない」という点については、サフオイル乳剤も他の商材と同じですが、ハダニ等に対しては、5~7日間隔で2回程度散布すれば一定の防除効果が得られるという優れものです(発生前~発生初期の内の使用がお勧め)。
ハダニに対する殺卵効果としては、先に挙げたような孵化阻害による殺卵効果となりますが、サフオイル乳剤を処理して乾燥させた後にハダニ類(ナミハダニ・ミカンハダニ)を放虫しても殺虫効果を示す事がわかっています。
この辺りが他の商材と異なる部分です。
サフオイル乳剤は、ハダニ類に対する残効が7日程度ある事がわかっています。
サフオイル乳剤は虫に直接かからなければ十分な効果が発揮できません。
ですので、サフオイル乳剤は展着剤の可溶を推奨しています。
展着剤は広がりの良い物を用いると良いと思います。
具体的には、まくぴか、ブレイクスルー、ドライバー等がお勧めです。
サフオイル乳剤を処理した葉にナミハダニの成虫を放虫して観察すると、ナミハダニは足を取られたような動きをし、動きが鈍くなります。
サフオイル乳剤を処理していない葉に寄生させたナミハダニと比較すると、体のサイズが小さく、害虫の斑点が不明瞭になってくる為、摂食阻害作用が働いている事が予測できます。
この足が取られるような感じを嫌ってか、サフオイル乳剤未処理の葉と処理済の葉とを比べると、未処理の方が寄生数が多くなるといった忌避的な効果を示します。
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サフオイル乳剤はタバココナジラミ(トマト黄化葉巻病)に対しても有効な防除資材です。
タバココナジラミの生活環は、卵の期間が約7日間、幼虫の期間が約14日間、成虫の期間が約7日間有ります。
サフオイル乳剤をタバココナジラミに複数回散布すると、タバココナジラミの増殖を抑えるだけでなく、忌避効果を示す事もわかっています。
タバココナジラミはウイルス媒介する害虫としても有名です。
代表的なウイルス病害を挙げると、タバココナジラミ・バイオタイプQによるトマト黄化葉巻病、トルコギキョウ葉巻病、メロンやキュウリでの耐緑黄化病が問題となっています。
果菜類の生産における重要害虫は、アブラムシ類、アザミウマ類、ハダニ類、アザミウマ類(スリップス)、コナジラミ類、タバコガ等が居ますが、コナジラミも多発してしまうと防除が困難になる為、初期の内の対処が必要です。
サフオイル乳剤はタバココナジラミに対して忌避効果や産卵抑制効果がある事がわかっています。
販売元であるOATアグリオ㈱では、トマトの黄葉巻病対策として、サフオイル乳剤を押しています。
岐阜県農業技術センターでの試験結果として、以下のような効果があがっています。
①サフオイル乳剤を散布しておくと、定位するタバココナジラミの成虫数や産卵数が減少する
②正常な交尾行動が阻害され、生まれてくる子供は雄の比率が高くなる
③TYLCV保毒虫を放虫しても、トマト黄葉巻病の感染・発病が抑制される
④化学農薬と同程度にタバココナジラミ成虫数を抑制できる
定期的にサフオイル乳剤を連続散布する事で、タバココナジラミが近づきたくないという状況を作り出します。
吸汁阻害や定位阻害(居つかなくする)効果がある為、必然的に産卵数の減少や病害発生の抑制につながるわけです。
発生前~発生初期の内にサフオイル乳剤を散布するようにしましょう。
サフオイル乳剤は天敵や有用昆虫への影響が低い薬剤です。
サフオイル乳剤は多くの天敵・有用昆虫に対して影響性が小さく、IPM(総合的病害虫管理)にも適しています。
●チリカブリダニ
●ミヤコカブリダニ
●スワルスキーカブリダニ
虫体葉片散布法による試験:希釈倍数300倍
成虫・第一若虫・卵:◎
●タイリクヒメハナカメムシ
虫体散布法による試験:希釈倍数300倍
雌成虫・雄成虫:◎
●タバコカスミカメ
虫体散布法による試験:希釈倍数300倍
成虫・2齢幼虫:◎
●サバクツヤコバチ
虫体散布法による試験:希釈倍数300倍
マミー:◎
ドライフィルム法よる試験:希釈倍数300倍
成虫:△
葉片散布後放飼よる試験:希釈倍数300倍
成虫:〇
●ナミテントウ
虫体浸漬法よる試験:希釈倍数300倍
1~2齢幼虫:× 4齢幼虫:◎
●セイヨウミツバチ成虫
100㎍/成虫 局所施用法 → 影響無し
希釈倍数300倍でいちご苗に散布・風乾後放飼 → 影響無し
●マルハナバチ成虫
300倍希釈で虫体散布法による試験 → 影響無し
●カイコ5齢幼虫
300倍希釈で食餌混和法による試験 → 影響無し
※死亡率について
◎≦30%
30%<〇≦80%
80%<△≦99%
99%<×
鉄力トレプラスを使って秀品率と収穫量アップを狙う
■鉄力トレプラスの特徴について
鉄力トレプラスは、作物に吸収されやすい二価鉄と、作物生育に必要な微量要素、環境負担を低減させるトレハロースを配合した配合液肥です。
低温や低日照、高温などの条件下でも、鉄と微量要素をスピード吸収させる事ができるので、栽培におけるストレスや環境によるストレス障害を軽減します。
愛知製鋼が開発した二価鉄配合肥料は、OAT品以外にもいくつか扱われている物が有りますが、混ざり物によっても違いは有れど、意外と高額な物も有ります。
ですが冒頭紹介した通り、鉄力トレプラスは家庭菜園の方でもいくらか扱いやすい価格帯となっています。
■鉄力トレプラスの含入成分内容と成分の主な性質について
●保証成分(%)
水溶性苦土:2.0%
水溶性マンガン:1.00%
水溶性ホウ素:1.00%
水溶性なので植物体に吸収されやすいといった性質が有ります。
苦土とはマグネシウム(Mg)の事で、葉緑素の構成元素であり、リン酸反応の補酵素、細胞pHと浸透圧の調整を行います。
マンガン(Mn)は、葉緑素の生成に不可欠な元素で、酵素タンパクと結合して各種酵素作用を促します
ホウ素(B)は、細胞壁の生成に重要な役割をする元素で、糖の代謝にも関与します。
●配合成分(%)
鉄:0.50%
銅:0.05%
亜鉛:0.104%
モリブデン:0.039%
鉄(Fe)は、葉緑素の生成に不可欠な元素で、亜硝酸を還元します。
銅(Cu)は、各種酵素の中心元素で、特に呼吸で鉄と同様の重要な働きをします。
亜鉛(Zn)は、葉緑素の生成や酸化還元反応など、各種酵素に関与します。
モリブデン(Mo)は、硝酸を亜硝酸に還元するのに重要な役割を担っています。
●その他の含有成分としてトレハロースを含入する。
■各元素における欠乏症の出方について
窒素(N)、リン酸(P)、加里(K)、苦土(Mg)、硫黄(S)は、植物体内で転流しやすい成分で、欠乏すると主に古い葉(下葉)に症状が現れます。
一方で、石灰(Ca)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)は、植物体内で転流しにくい成分(特に石灰・ホウ素は移動し難い成分)で、欠乏すると新しい葉(成長点)に症状が現れます。
鉄力トレプラスは、葉緑素に必須の鉄イオンとマグネシウムイオンを安定的に供給する事ができる商材です。
雨天や曇天が続いて光合成がうまく行われないような時などに散布すると非常に効果的です。
家庭菜園で何をあげたら良いかわからないという方にもお勧めです。
■鉄力トレプラスの使用方法について
●葉面散布(育苗時)の場合
2000~4000倍希釈で1~2週間に1回程度の間隔で利用する。
●葉面散布(本圃)の場合
1000~2000倍希釈で、1~2週間に1回程度の間隔で使用する。
●土壌灌水(潅注)の場合
5000~20000倍希釈で1~2週間に1回程度の間隔で使用する。
■鉄力トレプラスの作物別使用方法と主な効能について
作物ごとの使用方法については、メーカーHP上で明記されておりますので確認してみて下さい。
果菜類においては、着果促進、成り疲れ解消効果。
葉菜類・根菜類については、生育促進や品質の向上。
豆類については、着葵数増加、品質向上。
果樹類については花芽充実、品質向上、果実肥大促進。
花弁類については、日持ち向上、生理障害の予防。
等といった効能があります。
使用上の注意点、混用についての注意点等の明記もありますので、ご利用になる際はチェックしてみて下さい。
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まとめ
今回はサフオイル乳剤と鉄力トレプラスで害虫防除と秀品率アップを狙おうという内容で紹介させて頂きました。
実はOATさんのチラシでも、「良く護り、良く獲れる!」というキャッチコピーで現場推奨されています。
油系のサフオイル乳剤を使う際の注意点としては、高温時に処理してしまうと油浸斑という油じみのような薬害が起こる事があるので、できるだけ涼しい時間単に使用するという点と、できるだけ早く乾かすよう展着剤を可溶する事です。
展着剤を可溶する事で、サフオイル乳剤の散布ムラをカバーする事もできる為、微小害虫に対する殺虫効果も上がります。
サフオイル乳剤については、メーカーHPをご参照ください。
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