物理防除農薬の種類と特徴についての考察。気門封鎖剤を選択する際のヒント。

このページでは、物理防除系農薬(気門封鎖剤)という農薬にフォーカスを当てて、その種類や特徴などについて簡単に紹介するとともに、その中でも個人的にお勧めな薬剤について紹介します。



物理防除系農薬(気門封鎖剤)の種類について

物理防除系農薬(気門封鎖剤)は、大きく3つの種類に分ける事ができます。

■糖系統
具体的な薬剤名だと、粘着くんやエコピタなど。

農薬成分名等をみてもらうとわかりますが、食品(デンプン)を用いた農薬になります。
食品ベースの成分になりますので、人間に対する安全性も高いです。

希釈倍数は100倍~200倍などが主で、かなり濃く使う農薬ですが、気門封鎖系農薬の中では薬害が出にくい系統となります。
化学農薬のようなパンチ力は期待できませんので、対象害虫が多発条件である場合はあまりお勧めできません。
低密度条件でのコントロール剤として用いるのは有りです。

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■油系統
具体的な薬剤名だと、サンクリスタル乳剤やサフオイル乳剤など。

例えば100倍~600倍というように、糖系の物理防除剤よりは薄い濃度で使う事ができます。
登録と発生条件に合わせて希釈倍数は使い分けた方が良いと思いますが、原料に油を用いている事もあり、高温時の散布だと油浸斑という油染みのような薬害や、黒ずみなどの薬害が生じる場合が有ります。

ただ、この系統にはプラス作用もあり、薬剤によっては、ハダニ等に対する殺卵作用、一部の害虫の忌避をうかがわせるような作用、既存農薬と混用する事での相乗効果作用といった効果が期待できます。


■界面活性剤系統
糖系統と油系統の良いところ取りを狙った系統です。
希釈倍数は500倍程度。
製剤によっては1000倍といったように物理防除剤としては高希釈倍数で使える物もあります。
油系統の薬剤と比べるとハダニ等に対する殺卵作用は弱いですが、ハダニ・アブラムシ・コナジラミに対しての幼虫から成虫にかけての効果は比較的高い系統です。

この界面活性剤系統は、モノマー系とポリマー系に細分化されます。
モノマー系は混用時に薬害が出やすい物も有りますが、ポリマー系は作物表皮への刺激が少ない為、薬害が出にくいといった特徴があります。

ポリマー系の農薬としては、日本化薬さんが販売している「フーモン」などが有ります。
1000倍の高希釈で収穫前日まで何回も使用できる製剤で、界面活性剤系という事もあり、展着剤作用を有します。

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作物は選ぶが農薬混用でアザミウマ類に対しての相乗効果を狙える気門封鎖剤

代表的な薬剤としてはサンクリスタル乳剤です。
野菜類登録を取得している物理防除農薬です。

主な登録病害虫は、うどんこ病、アブラムシ類、コナジラミ類、ハダニ類です。

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油系統の薬剤には良し悪しが有りますので、まずはデメリット部分を紹介しておきます。


油系統の物理防除剤という事もあって、高温時の散布は油染みのような薬害(油浸斑)が出やすい為、注意が必用です。
幼苗時期や軟弱になっているタイミングでの散布は、薬害を助長するリスクが高くなりますのでお勧めできません。

また、いちごに使用する場合は、完熟状態のタイミングで使用すると、品種によっては果実が黒ずむといった薬害が出る場合が有りますので、品種と散布タイミングには注意が必用です。

ストロビルリン系薬剤、TPN剤(ダコニール)、アセタミプリド剤(モスピラン)、トリフルミゾール剤(トリフミン)、ベノミル剤(ベンレート)、キャプタン剤(オーソサイド)との混用は薬害が起こる場合が有ります。


メーカーさんの技術資料にストロビルリン系殺菌剤とTPN剤を併用する際の注意点が書かれています。


ストロビルリン系薬剤を用いる場合は、サンクリスタル乳剤を先に使う場合は10日以上の間隔をあけてからストロビルリン系殺菌剤を散布するようにして下さい。
逆にストロビルリン系薬剤を先に散布する場合は、14日以上の間隔をあけてからサンクリスタル乳剤を散布するようにしてください。

TPN剤との併用についても、混用事例で薬害が確認されているきゅうり・トマト・しそについての前後散布は、14日以上の間隔をあけてから散布するようにしてください。

葉面散布剤(液肥)との混用もお勧めできません。


とまぁ、こんな感じで、「いやぁ…めっちゃ使い勝手が悪いじゃないか!!」と思われてしまいますよね。
ですが、ここからがサンクリスタル乳剤のメリットポイントです。

このサンクリスタル乳剤は、先に挙げたように、アザミウマ剤と混用する事で、アザミウマに対しての相乗効果を狙えるといったメリットがあります。

感受性の低下したアザミウマ登録薬剤(アザミウマ登録が有るがいまいち効きが悪い薬剤)とサンクリスタル乳剤500~600倍で混用した場合、対象薬剤の効果を引き上げるというメーカーさんのデータがあります。

ナス、トマト、ネギ等は特にお勧めな薬剤です。

薬害リスクを低減する為にコンテンツを落とした混合剤、ダブルシューターSE(サンクリスタル+スピノエース)という農薬も有りますが、こちらだとハダニ等の卵に対しては効果が劣る為、防除におけるコストコントロールが十分できるのであれば、単剤同士の組合せがお勧めです。

また、サンクリスタル乳剤は、油系統という事もあって展着剤的な作用も有します。
べたべたする印象ですね。

そして、ミツバチに対して安全性が高いといった特徴もあります。

薬価が高めなので、反収の張る作物でないと使い勝手が悪いかもしれませんが、既存剤を使っていて、アザミウマ等に対していまひとつ効きが悪いと感じるようであれば、こうった薬剤を選択するのも有りでしょう。

薬害が100%出ないというわけではありませんので、メーカーさんが提示している混用可能薬剤をよく確認し、使用タイミングに注意しながら活用頂ければと思います。



ハダニに対する残効性有り!サフオイル乳剤

同じく油系の物理防除剤であるサフオイル乳剤についても紹介しておきます。

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原料に用いているのは、サフラワー油(ベニバナ油)と綿実油(ワタ油)です。
野菜類登録と、トマト・ミニトマトの登録を持っています。

主な登録病害虫は、ハダニ類、チャノホコリダニ、コナジラミ類です。
収穫前日まで使用する事ができ、散布の回数制限は有りません。

サフオイル乳剤は、サンクリスタル乳剤と同様、ハダニの卵~成虫までを防除する事が可能です(孵化阻害による殺卵効果)。
また、コナガの卵についても殺卵作用を有します。

アザミウマ剤との混用による相乗効果は確認されていない為、この部分では押せませんが、残効性という点は他の物理防除剤と比較してメリットが有ります。

一般的な物理防除剤だと、残効が短い為、短時間で何回も薬剤散布が必要となります。
また、虫の体に直接散布液が付着しないと十分な殺虫効果を得る事ができません。

これに対し、サフオイル乳剤は、ハダニに対して、5日~7日の間隔で2回程度の散布で十分な効果を発揮します(ハダニの生活環にうまくはまる残効があると言えます)。

実際、薬剤を処理して乾かした葉に、ハダニ類を放虫しても殺虫効果を示す残効性が有ります(ナミハダニ、ミカンハダニ、ハダニ類に対しての残効性が確認されています)。

また、サフオイル乳剤を散布した後にハダニ類が寄生した場合、サフオイルの有効成分によってハダニの足がとられ、行動抑制を引き起こす事も確認されています。

人間の目視ではわからないレベルではありますが、この虫の足が取られるという点で、多少の忌避的な作用があるのではないか?という見解もあり、非常に興味深い部分です。

サフオイル乳剤についても、サンクリスタル乳剤と同様、混用が難しい薬剤が有りますので、詳しくはメーカーの技術資料等をご確認下さい。

 

まとめ

物理防除剤には糖系と油系、界面活性剤系の3分類がある事を紹介しました。

それぞれの系統によって良し悪しがありますが、今回はその中でも油系統のサンクリスタル乳剤とサフオイル乳剤にフォーカスを当てて紹介してみました。

油系統の物理防除剤は、油浸斑による薬害リスクと、混用の注意点などの使いにくさもありますが、油系統の使用メリットもいくつか有ります。

薬剤混用にはリスクも有りますので、ご利用の際は注意しながら活用頂ければと思います。

関心が有りましたらチェックしてみて下さい。


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