露地ナス栽培の重要病害、ナス褐紋病の発生にご注意下さい。

7月頃の長雨や曇天といった天候不順は露地ナス栽培に大きな影響が出る場合が有ります。
長雨になると根痛み出てくる為、樹勢が弱まりますし、雨上がり後に酷暑になると作物が受けるストレスも大きくなります。

収穫量の減少であったり、病害の発生であったり、生産者の方たちは大変ご苦労されている事と思います。


今回はそんな露地ナス栽培において、梅雨明け以降から注意が必要な病害である「ナス褐紋病」についてピックアップしてみようと思います。

ナス褐紋病」は、梅雨明け後くらいから多発する病害で、盛夏を過ぎるくらいの頃に最も被害が大きくなります。

寒冷地でも発症する事がある病害ですが、どちらかというと暖地での被害が大きい病害です。

収穫ピークから終盤にかけて増えていく病害ですが、登録薬剤がほとんどないという問題が有ります。
そして一番厄介なのは、この病害は輸送中に発病する病害だという事です。

褐色腐敗病も重要病害の1つですが、褐紋病も市場関係の方も含めて頭を悩ませる病害の1つとなっています。



ナス褐紋病の生態などについて

ナス褐紋病は、Phomopsis vexans (Saccardo et Sydow) Harterという糸状菌(カビ)により発生する病害です。

不完全菌類に属するカビで、ナスだけを侵します。

この病害は苗床でも発生する病害で、胞子や菌糸の形で種子に付着し、苗床で立枯れを発生させます。
また、ナスの生育期中に発病した病斑の柄子殻という小さな黒い粒が畑で越冬して翌年の伝染源となり、胞子が飛散する事で茎や下葉を侵します。


柄子殻は土壌中で2年以上生存する事がわかっており、一度発生してしまった圃場は注意が必要です。


ナスの株に飛散した胞子は、発芽すると植物の気口や傷口などから侵入し、6日~12日くらい経つと病斑ができます。

柄子殻の中には、伝染力のある胞子と伝染力のない胞子ができますが、この胞子形成は気温に関連しており、26℃くらいになると伝染力のある胞子と無い胞子が混在し、28℃以上になると伝染力の高い胞子のみが作られます。

平均気温が24℃~26℃になると発生し、28℃以上になると蔓延が激しくなります。


連作栽培の場合は、圃場の伝染源が多い為、発病リスクが高まります。
一作ごとに圃場を変えるといった対策も必要です。

苗床では風通しが悪かったり多湿になると発病が助長されます。
本圃においては、排水不良や密植、窒素過多等によって発生が助長されます。

採取栽培の場合は果実を遅くまでつけておく為、通常栽培より発病リスクが高まります。



ナス褐紋病の病斑の出方や被害症状について

先にも挙げた通り、この病害は苗床でも発生する病害で、発生した場合は「立枯れ」を起こします。

生育初期の内は主に葉に病斑がでる病害ですが、収穫時期になると果実にも被害(病斑)が出ます。

本圃での蔓延期には、若い葉・枝・果実にも病斑が広がります。

葉に出る病斑は、葉脈付近の褐変症状や、円状の輪紋病斑が特長的です。
病斑が広がると、病斑同士がくっついて大型の病斑となります。
病斑が古くなると破けたり穴が開いたりします。

長雨の時や晩秋に発生する場合は、病斑の境は不明瞭で輪紋症状もはっきりしない場合が有ります。

枝に症状が出る場合は、細長く凹んだ褐色病斑ができます。
病斑が茎全体を取り巻くと枝は枯れてしまう事が有ります。

果実にできる病斑は、最初の内は火傷のような丸みを帯びた病斑ができますが、次第に凹んで同心円状の輪紋病斑となり、小さな黒い粒が発生します。
発病した果実は、へたの部分から落ちるか、そのまま乾燥してミイラ状になります。
果梗部分が侵されて幼果が枯死し、ミイラ状になることもあります。



ナス褐紋病の耕種的防除方法や、登録農薬について

以下は、他の病害にも共通する一般的な耕種的防除方法になります。

●剪定等も含め、密植にならないよう作付けする。
●窒素過多にならないようにする。
●被害枝や果実は見つけ次第、圃場外に持ち出して処分する。
●排水不良の畑で出やすい病害である為、排水の悪い圃場の場合は、高畝にして栽培する等の工夫を行う。

発病した枝や果実をそのまま圃場に放置してしまうと、病斑上に柄子核ができて胞子を飛散させます。
圃場外へ持ち出して処分する場合は、土中深くに埋没させたり肥料袋などに密封して腐らせるといった方法があります。

登録農薬としては以下のような薬があります。
FRACは農薬の分類分けグループです。
登録薬剤自体が少ないので病害発生前からの予防主体での防除が重要です。

●ベンレート水和剤
FRACコード:1

●スクレアフロアブル
FRACコード:11

●ベルクートフロアブル
FRACコード:M07



ちなみに、ナス以外の褐紋病登録薬剤としては、以下のような薬剤が有ります。

●トップジンM水和剤(えんどうまめ・さやえんどう・実えんどう)
FRACコード:1

●ペンコゼブフロアブル(さやえんどう・実えんどう)
FRACコード:M03

●アミスター20フロアブル(さやえんどう・実えんどう)
FRACコード:11


この中でペンコゼブフロアブルはナスに登録が有りません。
他の薬剤も作物が異なりますので、ナスの褐紋病に対してシャープに効くかわかりませんが、FRACコードを鑑みると、FRACコード1のベンズイミダゾール系か、FRACコード11のストロビルリン系の薬剤がある程度有効なのかなと思われます。

登録は有りませんが活性が有るとされているファンタジスタ顆粒水和剤もFRACグループ11のストロビルリン系薬剤です。

スクレアフロアブルやファンタジスタ顆粒水和剤は、従来のストロビルリン系薬剤とは異なり、べと病や疫病に対しては効果が有りません。
どちらかというと菌核病等に強い薬剤となります。

特にスクレアフロアブルは果樹などのホモプシス属菌にも有効な殺菌剤です。
ナス褐紋病はホモプシス属菌の病害となりますので、防除の主体になる薬剤になります。

どちらにせよナス褐紋病に対して使える農薬は、限られた薬剤と限られた薬剤系統しかありません。
できるだけ発病させないようローテーション防除を行うようにして下さい。



圃場で見かけるナス褐紋病と思われる病斑例

ナスの作付け圃場で見られる褐紋病と思われる病斑の一例です。
梅雨明け以降、このような症状が見られる場合は十分注意して下さい。


葉に小さな輪紋症状などが見られる物。
連作圃場の場合、下葉は特に被害が出やすいです。
病斑の周辺部分は黄化して中央部が破れる事も有ります。
ナスの葉 病斑

果実に症状が見られる物。
虫にかじられたのかな?と思うようなボコボコした小さい円状の病斑が特長的です。
円の中心部分に黒い点のような物が見られます。
ナス被害痕

収穫の際にはじかれたナス。
円状の凹んだ病斑が沢山発生しています。
病斑同士が重なった所は大きな病斑となっています。
ナス 褐紋病と思われる被害
ナス 褐紋病と思われる被害2

↑の病斑をそのまま放置すると、↓落下した果実のような大きい病斑となります。
いくつか菌が混在しているかもしれませんが、小さい輪紋症状が重なって大きな病斑となります。
なす病害①
なす病害③



まとめ

今回は、ナスの褐紋病についてピックアップしてみました。

収穫した時には症状が見られなくても、箱詰めして移動する頃に病斑が発生する場合が有ります。
市場に出した後にクレームになりやすい病害ですので、十分注意して下さい。


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