オリゼメート粒剤がメーカー欠品。葉菜・果菜で代替え提案できる物はあるのか?

2019年は、3月に中国の江蘇省(こうそしょう)で化学製品関連の工場が爆発した影響等により、オリゼメート剤を含むいくつかの製剤に欠品や遅延等の影響が出ました。

欠品や品薄が長引く原因となったのは上記の爆発事故に限らず、新型コロナウイルスの影響(ロックダウン)なども大きな要因となりました。

2021年度についてもオリゼメート剤の供給は不安定という事で、2019年度から悪い状況がスライドするような状況となっています。

2019年~2020年と影響があった品目については、メーカーさんからの潤沢な再出荷はとりあえず鵜呑みにせずに今後も一応注視しておいた方が良いのかもしれません。


この記事では主に畑作で使うオリゼメート粒剤の欠品等にスポットを当てた記事となっておりますが、「何か代替として提案できる物が無いか?」という事で、紹介してみようと思います。


そもそもオリゼメート粒剤はどんな薬なのか?

多くの作物で当たり前のように使っているオリゼメート粒剤ですが、実際の所はどんな薬なのか?について簡単にまとめておきます(以下はオリゼメート3㎏剤の登録内容です)。

主成分は「プロベナゾール」
FRACコードはP2に該当します。

2020年現在の登録内容(メーカー製品ページより抜粋)↓
オリゼメート登録内容①オリゼメート登録内容②

平成28年度の更新を最後に、2020年時点においては変更がありません。
詳しくはメーカーさんのHPをご参照下さい。


オリゼメート粒剤の特徴として、メーカー製品情報としては以下のように書かれています。

1、世界初の植物防御機構活性化剤(Plant Defence Activator)です。
   植物の病害抵抗性を誘導して高い効果を示す、ユニークな作用性を
      もつ殺菌剤です。
2、いもち病・白葉枯病・もみ枯細菌病・穂枯れに優れた効果を発揮
      します。
      きゅうり・レタス・キャベツ・ブロッコリー・はくさい・ねぎ等の
      細菌性病害に有効です。
3、効果の持続性に優れ、強い効果が長く続きます。



オリゼメートは水稲においては、いもち病の抵抗性誘導剤として有名な農薬です。

※抵抗性誘導の事を「プラントアクティベーター」とも呼びます。

いもち病抵抗性誘導のイメージとしてはおおむねこのような感じです↓
抵抗性誘導剤イメージ
上の画像はよくある説明画像ですが、葉の表面に病原菌が付着しすると、栄養を取る為に植物体内に侵入してきます。
この時に、抵抗性誘導剤を事前に摂取させておくと、病原菌の侵入を察知し、感染が広がらなくなる(軽減する)といった作用が有ります。

オリゼメートは「いもち病抵抗性誘導剤」という効果があり、いわゆる「ワクチン」のような作用です。
※抵抗性誘導は作用が類似する病害にも有効で、いもち病以外にも派生します。

人間でいう所のインフルエンザの予防接種をイメージして頂ければ良いと思います。

予防接種しないで病気に感染すると症状が悪化・重篤化する事が有りますが、事前に予防接種を受けておけば、感染しても軽く済むという具合です。


3㎏オリゼメート粒剤は、水稲に限らず多くの作物で登録を持っています。
しかしながら、水稲に関しては、オリゼメート3Kg粒剤は溶出コントロールリリース剤では無いので、水稲で使う箱剤は溶出がコントロールされている専用の箱剤が主体となっています。
3㎏粒剤での水稲使用は薬害リスクが怖いので、基本的には畑作での使用実例が多いです。

同様に、きゅうりやピーマン、レタス等においても、作物の状態や使い方によって、葉縁の黄化、退色、葉のわい化、活着の遅延、生育の遅延、といった薬害が出る場合が有ります。

オリゼメートは「ワクチン」のような薬剤なので、条件によっては薬害や弊害が出てしまいます。
人間もそうですが体が健全でない所にワクチン接種はできませんよね?


園芸分野でオリゼメートを使う目的としては、斑点細菌病や黒腐病、軟腐病などの細菌性病害対策として用いられる事が多いです。
とはいえ、これを入れておけば生育期中の防除で手を抜いても良いというわけではありません。

前作の影響や、その年の状況によっても病害の出方は異なりますし、投入しておけばまったく病害が出ないという物でもありません。
作物の場合、一度病斑が出てしまうと元には戻りませんので、追加の防除、ローテーション防除が必要となってきます。

とはいえ、ワクチン的な要素で考えると、病害発生を軽減できる期待が持てますので、とても良い薬剤です。





オリゼメート粒剤のような抵抗性誘導型の農薬はどんな物があるのか?

これについては、水稲分野では以下の物があります。
薬剤系統は異なりますが、代表的な物を挙げておきます。

イソチアニル製剤(商品名に「ルーチン」または「スタウト」と付く物)
 FRACコードはP3

チアジニル製剤(商品名に「ブイゲット」と付く物)
 FRACコードはP3

●ブーン剤(JA専門剤 クミアイ化学製品)
 FRACコードは未分類の新規有効成分(ジクロベンチアゾクス)
 クミアイ化学と全農の共同開発品。

園芸分野においては、シンジェンタのアクティガード顆粒水和剤(アシベンゾラルS-メチル50.0%製剤 FRAC:P1)が2020年2月より地域限定(八ヶ岳限定)で発売されています。
こちらについても抵抗性誘導型の殺菌剤になります。
登録内容はキャベツ・はくさいの「黒斑細菌病」。
希釈倍数は5000倍。
セルトレイ当たり0.5L灌注、定植前日~定植当日、使用回数1回という登録内容になっています。

現在は国内登録は抹消されていますが、アシベンゾラルS-メチル製剤は過去に「バイオン」という商品名で販売されていました。
こちらもメインは水稲であり、いもち病や白葉枯病対策剤として用いられていました。
当時は葉菜類においても収穫比重を上げるといった、登録外使用での需要があったようです。
諸外国では、水稲の他に、大麦・小麦・バレイショ・トマト・メロン・レタス・バナナ・マンゴー・キャベツ・バレイショ・トウガラシ等に登録を持っています。

アクティガードについては、製品備考にも書かれていますが、登録作物に対する薬害リスクが有ります。
特に高温条件下、乾燥条件下での使用は薬害発生リスクが高まる懸念から、2020年時点では地域限定販売(八ヶ岳のみ)という位置付けになっており、流通制限されている状況です。
関東圏でのメーカー試験では激しい薬害が出てしまった為、暖地エリアにおいては、今後も拡大の見込みは無さそうです。



オリゼメート粒剤の代替えとなる商材はあるのか?

水稲以外の作物の場合、オリゼメートと同じ系統・同じ作用の農薬は有りません。
ですが、オリゼメート粒剤が使えない場合、何かしらの代替(として使えそうな)資材が必要となってきます。

ここで注目されるのが菌根菌資材です。

最初に誤解のないように記載しておきますが、農薬として販売している商品を除き、一般的な菌根菌資材や菌体資材は「農薬ではありません」
農薬と菌体資材は作物に対するアプローチ部分が異なりますので、農薬と全く同じ効果は期待できません。
双方にメリットデメリットは有りますが、その点をご理解した中で選択するかどうかをお選びいただければと思います。


菌根菌とは植物の根に寄生する菌(カビ)で、植物生育に必要な水分や栄養分を吸収するのを助けてくれる菌です。


根を守る物であったり、養分吸収を助けてくれるものだったり、菌根菌はいくつかの分類に分かれますが、一部の植物を除き多くの作物が菌根菌と共生しています。


オリゼメート粒剤とは作用の仕方が全く異なりますが、菌根菌商材を1つ挙げるとすると以下のような商材が有ります。

ツインガード
出光アグリ㈱ ツインガード5㎏
メーカーHP



ツインガード5㎏とはどんな商材なのか?

ツインガードは、有用微生物のVA菌根菌グリオクラディウム属菌という2種類の菌体を用いた共生菌資材です。
※形状は砂状になります。

●VA菌根菌
VA菌は、根から菌糸を伸ばしてリン酸、ミネラル、水分をポンプのように吸収し、植物に効率よく供給します。
根毛も同時に作るのを助ける為、根が活性化します。
植物の開花や結実にはリン酸が重要な働きをしますが、リン酸は不要性となり吸収されにくいのが特徴です。
加えて、過剰なリン酸の供給は鉄分の吸収を妨げる弊害も有る為、圃場のリン酸を効率よく吸収する事が植物にとっては重要となります。
根に入り込んで共生する菌根菌により、養水分の吸収可能範囲が広がります。

※注意点としては、VA菌根菌はアブラナ科とアカザ科の作物には定着しません。


●グリオクラディウム菌
悪玉菌から根を守る働きをする菌です。
ストッキングをはかせたように根の周りを包み込み、根圏への悪玉菌の侵入を防ぎます。
一度根に寄生すると、根が身長しても効果を発揮します。



ツインガードの基本性能について

ツインガードを処理する事で以下のような効果が期待できます。

1、根への好影響 根張りの向上
2、健全な根の成長
3、定植時の活着促進
4、肥料効果の向上
5、植物全体への好影響
6、リン酸・ミネラル欠乏症の改善
7、耐乾燥性の向上
8、樹勢の維持向上
9、開花促進
10、連作障害の軽減
11、病害の発生遅延
12、成り疲れの軽減
14、収穫への好影響
15、収穫量の増加
16、収穫物の品質向上

2つの菌の効果により、様々な好効果を得られるメリットが有ります。


抵抗性誘導剤は病原菌が侵入した際に被害を広げないようなワクチン的な作用を有しますが、菌体資材はそういった作用はありません。
そもそも病気にならないよう最初からしっかりした体作りをしておこうというような感じで、アプローチ部分が異なります。




ツインガードを使うポイントと効果について

■播種時に使用する場合の効果

発芽後の根張りが向上します。
鉢上げ後や定植後の根の活着がスムーズになります。
ツインガードを播種時に処理した場合、定着した菌が鉢上げ後や定植後も活躍する為、連作障害が軽減するといったメリットも有ります。


■鉢上げ時に使用した場合の効果

播種時に使用する場合と同様の効果が得られます。
具体的には、根張りの向上、定植後の根の活着がスムーズなります。
また、播種時に定着した菌が鉢上げ後、定植後も活躍する為、連作障害の軽減につながります。


■定植時に使用した場合の効果

定植後の根張りが向上し、肥料の吸収が良くなるので、作の最後まで樹勢を保ちます。
根の生育が旺盛になり、太い一次根から多くの細根を発生します。
樹勢が旺盛になり葉肉が厚くなる為、葉の色も濃厚色で光沢がでます。
耐病性が向上し、連作障害が軽減されます。


ツインガードは病害抵抗性誘導剤とは異なりますが、健苗育成→作物が健全→耐病性の向上→連作障害の軽減と、処理しておく事で多くのメリットが期待できる製品です。



ツインガードの使い方、処理方法について

ツインガードの使用実例は以下のような登録内容になっています。

※ツインガードの製品チラシより抜粋
ツインガード登録内容
あくまで「使用実例」という位置付けとなっています(使い方の事例であって登録内容とは異なります)。
基本的には薬害を起こすような物ではない為、適用グラム数さえ守っておけば、使い方は生産者のさじ加減といった感じです。


■筋蒔き処理をする場合
畝に植穴を掘り、ツインガードを筋蒔きします。
筋蒔きしたツインガードが1株に対して約5g、根に直接触れるように苗を植え付けます。

■植穴処理をする場合
作物の根に直接触れるように、植穴にツインガードを約5g投入し、定植します。


コストを考える場合、筋蒔きの場合は投入量が多くなるなどの無駄がでると思いますので、オリゼメートと比べると割高な印象があるかもしれません。

ツインガードのコストを最低限に抑えるのであれば、培土または覆土に、トレイ株分のグラム数を混ぜて使うか、作業時の苦が無ければ定植時に植穴処理するのが理想です。
根に菌体が定着さえすれば、基本的にその後は継続して作用が続くため、コスト的には安く抑える事が出来ます。


ツインガードは5Kg包装なので、1株あたり5g処理となると、5㎏(5000g÷5g)で1000株分処理できる計算です。

オリゼメートは、土壌混和、全面土壌混和、作条土壌混和、株元散布という使用方法がありますが、おおむね10a当たりの使用量は6Kg~9Kgとなっています。
ピーマン・とうがらし類のみ植穴土壌混和という登録が有り、「5~10g/株」という登録内容です。
3㎏包装になりますので、植穴土壌混和の場合、5g(3000g÷5g)で600株分、10g(3000g÷10g)で300株分という計算になります。

農薬とは異なる商材となりますので、使うタイミングによっては適用グラム通り処理しようとすると手間がかかりすぎるという点ではツインガードは扱いにくい部分があるかもしれません。


ツインガードの使用上の注意点

以下、製品の注意点です。


■既定の使用方法、使用量を守ってお使いください
■本資材が作物の根に直接触れるよう処理して下さい
■土壌消毒した場合は完全にガス抜きした上でご使用下さい
■ベンレート、トップジンMは根圏微生物、共生菌の働きに影響を与える恐れがありますので、 これらの殺菌剤の土壌処理と併用はできません
■リン酸含有量の極端に高い土壌に施用しても、効果の発現が期待できない場合があります
■直射日光を避け、冷暗所の保管をお願いします
■開封後は資材を残さず使い切ってください


ツインガードは菌根菌ですので、根に直接触れるように使う事が重要です。

菌根菌は「カビ」ですので、上記のベンレートやトップジンMの他に、例えば灌注剤やドブ漬けして使うような殺菌剤も相性が悪いといったデメリットが有ります。
※灌注タイプの殺虫剤については問題ないとされています。

定植後の殺菌剤の通常散布であれば、土中への染み込みに限度があるので、問題ないとされています。

菌体資材ですので、殺菌剤の使用方法によっては共生した菌に影響が出てしまう為、相性が悪いといったデメリットがありますが、作物を健全な状態にもっていくという点においては非常に優れた製剤です。



まとめ

今回はオリゼメート粒剤の代替え提案できる商材は無いか?という点にスポットを当ててみました。

先にも挙げました通り、菌体資材・菌根菌資材は農薬ではありませんので、アプローチする部分が異なります。

ですが、菌体資材は減農薬栽培等を行うには必需品ですし、使用するメリットも十分有ります。


菌根菌資材の挙げて紹介させて頂きましたが、ネギなどのリン酸要求率の高い作物においては、VA菌に特化した商材も有りです。

今でも需要はあるようですが、このような商材もあります。
ドクターキンコンスーパーネギ
Dr.キンコンシリーズ。
メーカーHP(ねぎ用)

ネギ用やいちご用といった商材が有ります。

種苗メーカー等でも独自の商品展開があると思いますが、ここでは割愛しておきます。



OATアグリオ㈱さんが販売している「ルートビーズ」という菌体資材もありますが、こちらは根粒菌という菌体資材で、主にマメ科の植物の根に寄生します。
根粒菌は空気中のチッソをアンモニアに変換し、共生している植物に与える作用があります。
共生している植物は、チッソ養分をもらう対価として、光合成産物を根粒菌に与えます。

マメ科の作物を作られている方であれば、ツインガードの他に根粒菌資材を用いるのも良品栽培には向いていると思います。


作物自体を健康にする事を目的に菌体資材を導入する方法、抵抗性誘導剤は使わずに散布農薬だけで対処する方法等、色々なやり方が有ると思いますが、この記事が少しでも参考になれば幸いです。


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“オリゼメート粒剤がメーカー欠品。葉菜・果菜で代替え提案できる物はあるのか?” への4件の返信

    • Sekizuka様
      ご指摘ありがとうございました。
      抜けておりましたので本文追記致しました。
      細かく見て頂きましてありがとうございます。
      またお気づきの点等がありましたらお申し付けください。

    • ツインガード、ドクターキンコンは、農薬ではありません。
      この様な、農薬の代替品になるような表現はダメですよ。見た方は勘違いするでしょう。記事訂正を要望します。

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