べと病・疫病の専門予防薬「ピシロックフロアブル」
生産現場では、どちらかというと予防と治療、両方の効果のある殺菌剤を求める声が多い事もあって、ピシロックフロアブルは「予防主体で基本1000倍使用の薬剤」という事もあり、発売当初はあまり好んで使われているイメージが有りませんでした。
しかしながら最近は予防効果の高さから、ジワリジワリと使う方が増えてきている殺菌剤です。
効能については下記に詳しく記載しますが、基本的な使い方としては、発病前に作物体にピシロックの成分を入れておく事で高い予防効果を発揮します。
収穫前日数も短く、適用拡大により登録幅も広がり更に使い勝手が良くなりました。
今回は2020年6月30日付けでピシロックフロアブルの登録拡大が有りましたので、改めてピックアップしてみようと思います。
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目次
2020年6月30日付けのピシロックフロアブル適用拡大内容について。
これまで登録を持っていた、だいこん・ブロッコリー・ほうれんそう・きゅうり・メロン・キャベツ・レタス・非結球レタス・たまねぎ・トマト・ミニトマト・すいか・はくさい・てんさいに加えて、以下の作物と病害名が追加されました。
登録作物名に「非結球あぶらな科葉菜類」、「ねぎ」、「ピーマン」、「なす」が追加されました。
●非結球あぶらな科葉菜類:適用病害名に「白さび病」を追加。
●ねぎ:適用病害名に「べと病」を追加
●ピーマン:適用病害名に「疫病」を追加
●なす:適用病害名に「褐色腐敗病」を追加
追加作物の希釈倍数は1000倍
使用液量100~300L/10a
収穫前日まで
使用回数は3回以内
ピカルブトラゾクス(ピシロックの有効成分)を含む農薬の総使用回数は3回以内。
ネギで前日で使えるべと剤というのは非常に重宝されそうです。
また、ナスの褐色腐敗病も重要病害ですので、ローテーション散布に組み込みたいところですね。
ピシロックフロアブルの登録内容については、メーカーHPをご参照下さい。
ピシロックフロアブル製品ページ
ピシロックフロアブルの特徴・作用性・病害阻害ポイントについて。
ピシロックフロアブルの特徴について、メーカーさんの技術資料を基にピックアップしておきます。
詳しく見たいという方は、ピシロックフロアブルの製品ページをご参照下さい。
ピシロックフロアブルは卵菌類由来の病害に対して高い予防効果を持っています。
卵菌類の代表的な病害は「べと病や疫病等」です。
ピシロックフロアブルは新規系統の殺菌剤(テトラゾリルオキシム系の殺菌剤)で、農薬分類コードであるFRACコードはU17)のグループに属します。
2019年3月時点のFRACグループでは、ピシロックフロアブルの成分「ピカルブトラゾクス」だけがこのグループに分類されています。
ピシロックフロアブル以外の製品としては、クミアイ化学㈱のナエファインフロアブル(JA品目)という商品が有り、ピシウム菌、フザリウム菌、リゾプス菌の苗立枯病に対する予防薬として販売されています。
多くの作物で収穫前日まで使用できる製剤です。
(2020年7月現在、唯一はくさいのみ収穫3日前登録となっています)。
作物に対する安全性が高く薬害の事例がありません。
※単剤で使用した場合の例です。
浸達性と耐雨性に優れた殺菌剤です。
特に耐雨性は散布後150mm~200mmの降雨条件でも有効事例が有ります。
例えば1時間当たり20mmの雨を天気予報で例えると、土砂降りのレベルです。
1時間に100mmの雨となると、浸水や土砂災害が起こってもおかしくないような降雨量となります。
耐雨性が無いという薬剤は、降雨や散水と一緒に有効成分が流れてしまいますが、ピシロックフロアブルは高い浸達性がある薬剤ですので、降雨による影響を受けにくいといった特徴が有ります(しっかり乾けば防除効果が極端に落ちる事は有りません)。
↑ピシロックフロアブル技術資料より抜粋
■ピシロックフロアブルの作用性について(技術資料より抜粋)
「+」となっている病害に対して活性が有るという資料です。
■ピシロックフロアブルの生活環上の阻害点について(技術資料より抜粋)
ピシロックフロアブルは、遊走子形成の阻害、被のう化の阻害、被のう胞子の発芽阻害、菌糸慎重の阻害、造卵器形成の阻害、卵胞子の発芽阻害という6つのポイントを阻害します。
ピシロックフロアブルの使いどころは?注意点は?
ピシロックフロアブルは予防主体で使ってもらいたい殺菌剤です。
べと病や疫病については、発病初期くらいまでは止める効果があると思いますが、事前に作物体に吸収させておく事で優れた効果を発揮します。
メーカーさんの技術資料の中でも散布ポイントについて紹介されていますのでご参照下さい。
■ピシロックフロアブルの上手な使い方について(技術資料より抜粋)
ピシロックフロアブルは予防効果が非常に高い薬剤で残効もそこそこあります。
ですので、発病前からのローテーション散布に組み込む事をお勧めします。
べと病が出やすそうな温度・湿度条件に注意しながら予防主体の散布を行って下さい。
発病が進行してしまった場合は、治療効果の高い薬剤に切り替えましょう。
ある程度病気の広がりが止まったなと感じたら、再度ピシロックに戻して予防的に散布します。
■ピシロックフロアブルの散布ポイント(注意点)
ピシロックフロアブルは浸達性はありますが、移行性が有りません。
吸収された部分(例えば1枚の葉っぱ部分)が大きく広がると、その成長に合わせた部分的な広がりは見込めますが、移行性のある薬剤のような綺麗な広がりや新たな新葉等への移行はしません。
ですので植物成長が活発な時期は、メタラキシル剤やストロビルリン系の薬剤等のように、移行性があって移行するスピードも速い殺菌剤を上手に絡めてやりましょう。
ピシロックフロアブルは1成分の殺菌剤となりますので、耐性菌対策として連用散布は避けるようにして下さい。
だいこんの白さび病(ワッカ症)対策にもピシロックフロアブルはお勧めです。
■ピシロックフロアブルでのだいこん・ワッカ症対策(技術資料より抜粋)
だいこんのワッカ症は、白さび病と同じAlbugo macrospora という糸状菌により感染します。
ワッカ症は、露地・施設を問わずだいこんに発生する病害で、特に露地の秋冬作で被害が多い病害です。
ワッカ症はだいこんの葉に出た白さび病菌の胞子が、根部(地際から出ている部分)に感染する事で発症します。
大根の根部が十分肥大した頃に発症する病害で、白さび病菌が肥大してきた根部に感染し、20~30日後にワッカ症を発症します。
白さび病が根部に感染する前に防除しておく必要が有ります。
具体的には間引き後10日~15日後のタイミングで1回、20日~30日後に1回の計2回の防除を推奨しています。
※ダコニール1000でも同じタイミングでの散布を推奨しています。
まとめと補足
ピシロックフロアブルに対する効果委託試験の評価がピシロックフロアブルの技術資料に掲載されています。
↑技術資料より抜粋
A:実用性が高い
B:実用性がある
C:効果はやや低いが実用性はある
D:実用性なし
この資料には今回適用拡大になった作物は含んでおりませんが、資料を見る限りだと、作物を問わずべと病・白さび病・ピシウム菌に対する基礎活性は高いという事がわかります。
一方で、疫病や褐色腐敗病については「実用性があるレベル」という内容ですので、これらの病害については、べと病や白さび病などと比べると、発病してからの防除は難しそうだという事が読み取れます。
作物が異なる為一概には言えませんが、今回なすの褐色腐敗病とピーマンの疫病が適用拡大となりました。
上記の内容を考慮した場合、これらの病害については徹底した予防主体での利用がお勧めと言えます。
いくらか発病が見られるような圃場であれば、治療効果のある薬剤を優先的に使って、症状が落ち着いてからピシロックの利用を検討するのが良いでしょう。
一方で、非結球あぶらな科葉菜類のさび病、ねぎのべと病については、活性の高さが期待できそうですので、ローテーションの軸に入れても良いと思います。
ピシウム属菌については、例えばキャベツの苗床のピシウム属菌による立枯れ病対策はフォリオゴールドが主体となっていますが、ローテーションする薬剤に困った場合にはピシロックフロアブルを用いても良いと思われます。
安全性の高さと収穫前日数が短いという点は非常に使い勝手が良いです。
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