兼商ヨーバルフロアブルの特徴、効果、使い方のポイント等についてまとめます。

2020年1月29日付で、ヨーバルフロアブルが登録取得となり、同年3月より発売となりました。

この農薬は、農薬メーカーのバイエルが開発した「テトラニリプロール」という有効成分を基に国内でアグロカネショウが開発したジアミド系の殺虫剤です。

園芸分野はアグロカネショウがヨーバルフロアブルでカバーし、水稲分野についてはバイエルクロップサイエンス㈱が別の剤(ヨーバル箱処理剤・ヨーバルトップ箱処理剤)で担当するという割り振りになっています。

アグロカネショウ1社で販売という事なので、正式名称は「兼商ヨーバルフロアブル」となります。

規格は100ml×30本入/ケース。

園芸場面の主要害虫に対して、とても重宝する薬剤です。

商品キャラクターのパンチ力もなかなかですよね。

ヨーバルフロアブルがどのような薬なのか?について、さっそく以下に登録内容を含め紹介していきましょう。



テトラニリプロールとはどんな物?

ヨーバルフロアブル(テトラニリプロール)は、ジアミド系の殺虫剤です。

化学構造は、このような形をしています↓

テトラニリプロールについて

フェニックス顆粒水和剤やプレバソンフロアブル、あるいはベネビアODといったジアミド系薬剤は、画像のようにNH(アミド基)が2つ付きます。

このNHが2つ付く薬剤をジアミド系薬剤と呼びます。

このジアミド系薬剤なのかで、CN(シアノ基)が付いている代表的な殺虫剤がベネビアODです。

ヨーバルフロアブルは、NHとCNの構造に、テトラゾール環という物が足されている殺虫剤となります。
これが追加される事で、既存のジアミド剤と比べて親水性(水への溶けやすさ・安定性)が高くなるとされています。

親水性の高さの順番でいくと、クロラントラニリプロール(プレバソン等)に含まれるクロル基→ベネビア等に含まれるシアノ基→ヨーバルに含まれるテトラゾールという順番に高くなります。



ヨーバルフロアブルの殺虫スペクトラムと作用について

ヨーバルフロアブルは、チョウ目害虫、ハモグリバエ類に卓効を示すとされており、アブラムシについても、ワタアブラムシに対してのみ卓効です。

特にハモグリバエに対して卓効という部分については、近年ネギ場でのB系統のハモグリバエが問題となっている事も有り、ぜひとも活用して頂きたいところです。

その他のアブラムシ類、アザミウマ類、コナジラミ類、コガネムシ類にも効果があります。


殺虫効果については、ジアミド剤というくくりになりますので、筋肉収縮に作用して殺虫する薬剤となります。

ジアミド系薬剤という事も有り、残効性は長めであり、多くの作物で前日登録となっているのが特長です。


コナガの登録も持っている薬剤ですが、抵抗性コナガに関しては、事前情報から察するところ、ベネビア等と同等程度かな?という感じがします。

ベネビア発売の際にもメーカーより指摘がありましたが、化学構造が近しいことから交差抵抗性は付きやすいと考えられますので、同系統薬剤の連用は止めた方が良いでしょう。

プレバソン、フェニックス、プリロッソ、アベイル、ジュリボ、ミネクトデュオ、ベリマーク、ベネビア等は、成分は違えど皆ジアミド系、またはジアミド系薬剤を含む製剤です。

ローテーション散布を行う場合は、別系統の薬剤をかませながら使うようにしましょう。


有効成分の吸収移行性については、他のジアミド系薬剤よりヨーバルの方が勝という印象があります。
吸収の高さとしては、葉面よりは根からの吸い上げの方が高いといった特徴があります。

灌注場面で展着剤が必用かどうか?については別途メーカーで検討するとおもわれますので、今後の様子に期待です。


散布場面においては、15℃~30℃の温度変化がある中で散布した場合でも効果の影響は受けないという事がわかっています。
但し、他の薬剤と同様ですが、高温時の散布は作物に負担がかかる場合がありますので、避けるようにした方が無難でしょう。

耐雨性については、一旦乾いてしまえば1時間に70mmくらいの雨が降り続いたとしても問題が無いとされています。

ヨーバルは他の商品と異なり、付着性の高いオイルが入った商材ではありませんので、散布使用の場合は、展着剤は必須使用となります。

安全性の高い薬剤である為、展着剤を含む他の農薬との混用でNGとされる物は今の所ありません。
一般的にクセのある農薬は、できるだけ早く薬液を乾かした方が薬害リスクが減りますので、天候が悪い時に薬剤を処理するような場合は、ドライバー等の速乾性の展着剤を用いても良いでしょう。

ヨーバルフロアブルは、展着剤・殺虫剤・殺菌剤との混用については、うるさくない商材ですが、これはあくまで単剤同士の例ですので、3製剤以上の混用をしても薬害が出ないという事ではありませんのでご注意下さい。
メーカーさん自体が積極的な混用を勧めているわけではありません。



ヨーバルフロアブルの害虫に対する効果面と実使用倍数について

ヨーバルフロアブルは、ジアミド剤というくくりになりますので、接触毒よりは食毒による作用の方が高い薬剤となります。
効果としては、高い食害抑制効果が有ります。

例えば、ハスモンヨトウの6齢幼虫に対しても、試験事例ではありますが高い食害抑制効果が確認されています。


■実使用倍数について

チョウ目、ハモグリバエ類、ワタアブラムシを対象にする場合は、5000倍希釈で十分な殺虫効果を得られます。

関東ではまだ問題視されていませんが、西の方では近年ジアミド系薬剤のシロイチモジヨトウ等に対する抵抗性の話も出ております。
愛知の試験事例だとヨーバルは5000倍希釈でも実使用OKとなっています。
抵抗性コナガと同様に交差抵抗性の心配はありますが、特にネギ場ではシロイチモジヨトウによる食害は重要視されていますので、非常に重宝されるでしょう。

ワタアブラムシに対しては、試験事例ですが5000倍希釈で9割以上の殺虫力があります。
しかしながら、それ以外のダイコンアブラムシ、モモアカアブラムシ等についてはアブラムシ専門剤から比べると効果が落ちますので5000倍希釈だと効果は少し不安定な感じがします。

アブラムシ類については、専門剤と比べると効果としては遅効的ですが、2500倍希釈を想定すれば、ワタアブラムシ以外のアブラムシ類もある程度落とせると思います。 ベネビア等と同等といったイメージです。

注意点としては、素早い吸汁停止作用はあるものの、ネオニコチノイド系の薬剤のようにパタパタと落ちる薬ではありません。
死ぬまでに3~4日程度(目安)の時間を要します。
しばらくすると風とともに消えていくといった具合です。

同じようにミナミキイロアザミウウマ、オンシツコナジラミ、タバココナジラミQタイプ等についても専門剤ではありませんので、実使用倍数は2500倍が無難です。

ネギアザミウマに対しても活性が有りますが、アザミウマまでを含む防除を行う場合は、他と同じく2500倍使用がお勧めとなります。


以上の事から、チョウ目とハモグリバエ類を対象とする場合は、5000倍希釈での散布で十分。
但し、微小害虫まで含んだ総合的な防除を行う場合は2500倍希釈でないと効果がブレる懸念があります。

恐らく、生産現場では2500倍希釈で使われてしまうでしょう。
ただし、登録作物によっては5000倍の作物も有りますので、そのような場合は発生初期までに使うようにして下さい。
多発条件下での防除は専門剤より劣ります。



他剤と比較したヨーバルフロアブルの使用メリットについて

ヨーバルフロアブルは、作物の種類によって、散布登録、灌注登録の両方を有します。

1剤で葉菜類、果菜類、果樹類等といった幅広い登録を持っており、使い勝手幅の広い薬剤設計です。

ジアミド系薬剤の中には、ベネビアのようにオイルベース処方である為、混用等に注意が必用(最近はだいぶ緩和されてきましたが…)であったり、ジュリボ等のようにネオニコチノイド系と混合されている事で、苗処理した場合に長期間置いておけない等のデメリットのある薬剤もあります。
一方で、ヨーバルフロアブルはオイル処方製剤で無い為、薬害リスクがとても低いといった所が最大のポイントとなります。
高い安全性というのは最大のウリです。

仕様倍率によっては、アブラムシ、アザミウマ、コナジラミなどに対して、上記の薬剤より効果が劣る場合も有りますが、散布倍率2500倍であれば比較しても問題ではないかなという感じです。

今の所、灌注での使用は、吸収する時間を考慮して、灌注後1日以上あけてから定植するという流れを推奨しておりますが、今後の現地試験を考慮して日数調整をしてくると思われます(展着剤の添加についても同様)。



ヨーバルフロアブルの天敵・有用昆虫への影響は?

ヨーバルフロアブルは天敵への安全性が高い薬剤ですが、一部の天敵・有用昆虫には影響があります。

死亡率30%以下という条件になりますが、以下の有用昆虫にたいして高い安全性が確認されています。

●スワルスキーカブリダニ
●チリカブリダニ
●ミヤコカブリダニ
生育ステージ
成虫:直接散布〇 卵:直接散布〇

●コレマンアブラバチ
生育ステージ
マミー:薬液浸積〇

●オンシツツヤコバチ
●サバクツヤコバチ
生育ステージ
蛹:薬液浸積〇

●タイリクヒメハナカメムシ
生育ステージ
成虫:きゅうり葉接触〇 卵:薬液浸積〇

●タバコカスミカメ
生育ステージ
幼虫:きゅうり葉接触〇 ドライフィルム接触〇
成虫:きゅうり葉接触〇

●ナミテントウ
●ナナホシテントウ
生育ステージ
成虫:直接浸積〇

ただし、他の製剤も同様ですが、使用環境の条件によっては変動する可能性もありますので注意が必用です。
製剤の作用だけでなく、温度、天候、紫外線量、換気条件、薬液の乾燥程度など、環境変化によっても天敵・有用昆虫の生存には影響があります。


影響が出てしまう天敵昆虫もあります。

●イサエアヒメコバチ
生育ステージ
成虫:ドライフィルム接触△

●アリガタシマアザミウマ
生育ステージ
成虫:きゅうり葉接触× ドライフィルム接触×

●ハモグリミドリヒメコバチ
生育ステージ
成虫:ドライフィルム接触×

これらについてはヨーバルフロアブルを使用した際に影響が出る事が確認されています。



ヨーバルフロアブルの訪花昆虫に対する影響は?

ヨーバルフロアブルは天敵に対する安全性は非常に高い薬剤ですが、訪花昆虫に対しては影響があることが確認されています。

一応の目安となりますが、西洋ミツバチ・クロマル(灌注1日、散布14日)、マメコバチは訪花期を避けるといった内容になっています。

農薬の訪花昆虫に対する影響日数は、発売後に変更になる場合も多々ありますので、上記内容はうのみにせず、最新の情報を確認して頂ければと思います。

この訪花昆虫に対する影響は、登録作物が多い薬剤なだけに、ジアミド系薬剤としては唯一のデメリットとなる部分でしょう。

いちごや果菜類など、ハチを導入するような作物においては、散布で使用する際は使う場面が限定的となってしまいますが、作物によっては灌注登録も有りますので上手に使い分ければ良いと思います。



ヨーバルフロアブルの登録内容について

農薬の登録内容は発売前後でよく変わりますが、アグロカネショウさんのHP上にヨーバルフロアブルのページが有りますので、見やすい最新登録内容はそちらでご確認下さい。

近年の殺虫剤としては、かなり幅広い登録内容となっています。
葉菜類を含め、この1剤があれば虫の分野で困る部分はあまりないでしょう。

近年の農薬は、葉物向けと果樹向けと分けがちですが、1剤でこれだけの作物等をカバーできる農薬は珍しいです。



まとめ

というわけで、今回は「兼商ヨーバルフロアブル」についてレビューしてみました。

冒頭のジアミド系という部分を見て、「またジアミド系か…」と思われた方もいらっしゃったと思います。

プレバソン、フェニックス、ジュリボ、キックオフ、ベリマーク、ベネビア、ミネクトデュオ、エクシレル、テッパン等々、造園剤も含めればジアミド系統の薬剤は市場に溢れています。

しかしながら、ジアミド系薬剤でこれだけ幅広い登録を持って出てくるのは、このヨーバルが最後の口ではないかな?と思います。
いったいどの剤が主力になっていくんだろう??という感じはありますが、ヨーバルについてもローテーションの1剤になっていくでしょう。

その理由としては、近年発売される農薬が「作物限定」されがちなのに対し、初回の登録でこれだけの登録数をもって出てくるというのは強みだと思うからです。

ローテーション散布の核となっているであろうジアミド剤に、1剤使い勝手の良い薬剤が増えるというのは生産現場にとってはプラスだと思います。

葉菜類だけでなく、果菜類や果樹を含めると、規格ボトルとしては小さくなるのかな??という感じもしますが、多くの作物で前日登録というのは、生産現場では非常に使い勝手が良い薬剤ではないでしょうか??

あとはどの虫に対してどんな良し悪しがあるか?が気になる所ですが、それは追々レビューしていけたらと思います。

関心を持っていただけそうであれば、他のページもチェックしてみて下さい。


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