レタス腐敗病の生態と防除対策・農薬情報についてまとめます。

レタス腐敗病(症状によっては「タール病」と称される場合もある)は、細菌による病害で、結球初期から収穫期にかけて発生する病害です。

軟腐病のようなわかりやすい悪臭もなく、病害の出方も様々な為、極端な話、軟腐病ではないけれど何となく細菌性病害っぽいなと見分けがつくものは、総称で「腐敗病」と呼ばれる事が多い病害です。

今回は、そんな「レタスの腐敗病」についてピックアップし、その生態や防除対策、農薬情報等について紹介していこうと思います。



レタス腐敗病の発生原因と発病の仕方は複数ある。

レタス腐敗病の発病原因となる病原細菌は3種類存在します。

レタス腐敗病は細菌性の病害ですが、この病害は感染しても軟腐病のような悪臭がありません。

しかしながら病害が進むと他の病気にも感染する場合がある為、ある程度病害が進行してしまっていると見分けるのが難しく、一括して腐敗病と呼ばれています。

ざっくりした見分けポイントと対処方法としては、感染株(感染した近辺)にカビの菌糸が見られず、腐っている所の臭いをかいでみて軟腐病のような臭いが無ければ、腐敗病の類と見て対処するといった方法があります。


レタス腐敗病は結球してから発病する事が多い病気ですが、外葉に病斑が見られる時には内部まで発病している事が多く、外葉をむしり取っても内側に同じような病斑が出ている事が多い病害です。
放置すると株全体が腐ってしまいます。


3種類の細菌が原因の病害ですが、その症状は 褐斑型褐色腐敗型の2種類に分類されます。


★①:シュードモーナス・チコリによる腐敗病

この病原菌は、主に「褐斑型症状」を発生させる病原菌です。

長野県等の高冷地でよく見かける病害で、夏秋期の栽培で長雨などにより多発する傾向があります。
病斑部とそうでない部分との境界がはっきりしていて、多湿の時は株全体に病斑が広がります。
病斑部分が乾くと褐色かつ表面に光沢感が出るのが特長です。


褐斑型病斑が出やすいのは、高冷地の場合だと8月~9月頃に収穫するような作型、平坦地だと秋~初冬にかけて収穫する作型に見られる病害です。
発生の適温は20℃~25℃と高温を好み、冬作のレタスには発生が少ないといった特徴が有ります。


★②:シュードモーナス・マージナリスによる腐敗病と、③:シュードモーナス・ビリディフラバによる腐敗病

主に「褐色腐敗型」の症状を発生させる病原菌です。

②・③の病害は、病原性はほとんど無く、健全で無傷なレタスを犯す事はほとんど有りません。
これらの細菌の生育適温は27℃~30度とされていますが、これらが原因となる腐敗病は、低温気に発生が多くなるのが特徴で、強風雨や霜などによる凍結害を受ける事で作物が傷ついたり傷んだりすると、その部分から感染し発病します。
ナモグリバエ等による害虫による加害によっても、加害痕から病原菌が感染し、発病する場合が有ります。

トンネルを用いた春レタス(冬作型レタス)に多く見られ、トンネル内の高温や多湿条件により発病が助長される為、暖冬の時ほど注意が必用です。

換気管理を失敗するとあっという間に広がってしまう事が有ります。


少し話が脱線しますが、斑点細菌病の場合は、高原地帯の夏作型、平坦地の秋作型、冬作型いずれでも発生する事から、発生気温にはそれほど強く作用されないようですが、低温による障害は発病を助長していると考えられています。
ですので、凍害等が起こりやすい時は、腐敗病だけでなく斑点細菌病にも注意しなければなりません。


②・③によるレタス腐敗病は、見た目は健全そうに見えても、外葉を1枚2枚めくると内側に病害が見られる事もあります。
凍害等のダメージを受けやすい葉の縁などに出やすく、水染みのような症状から徐々に暗い褐色状に軟化腐敗し、葉脈が褐変して一気に拡大します。
放置すると株全体が腐敗し、乾いた部分はパリパリになります。


冒頭書いたように、一般的に腐敗病は、結球初期から収穫期にかけて、結球葉の2枚目くらいから褐色不整形の光沢のある病斑を生じ、多くの場合結球内部まで貫通するように病斑が拡大していきます。



レタス腐敗病の発病条件などについて

先に挙げた内容と重複しますが、レタス腐敗病が発生する適温は、加害される菌によって多少異なりますが、おおむね20度~25℃くらいで、軟腐病が発症する好適温よりは低めです。

①の菌による腐敗病の場合、平坦地ですと秋から初冬の比較的暖かい時期のレタスで激発する傾向があり、冬場には発生が少ないといった特徴があります。
病原細菌の力が強い為、降雨や風により作物が傷めつけられると、発病を助長しますので、農薬による予防散布、ローテーション散布を意識して行って下さい。

②と③の菌による腐敗病は、菌自体が健全株を犯すほどの力は無いとされている為、凍結害でダメージを受けやすい冬作レタスに発生するケースが多いのが特長です。
①の病原菌よりも発病適温が少し高めで、高温多湿条件下だと発病を助長する為、トンネルの換気、温度コントロールが重要となります。



レタス・腐敗性の病害例

腐敗病ではなく「腐敗性の病害例」という事でいくつか紹介します。

レタスの凍結害(葉裏)
レタス凍結害
凍害により葉の表面が剥離した状態。
程度によりますが、凍害を受けて時間がたつと画像のように表皮がはがれる事が有ります。
このように作物体に傷が付くと、細菌性の病原菌は入り込みやすくなります。


外葉にできた細菌性病斑(黒部分、縁部分)
レタス腐敗病③


凍害による被害から腐敗性病害が発症したと考えられる例。
褐変以外の部分を見ると、葉の表面が剥離しており、空間ができており間に水泡が見られる。
レタス腐敗病①

腐敗部分は軟腐病のような悪臭が無い。
レタス腐敗病②


腐敗性病害と思われる例。
こちらも凍害により葉痛みが出ている状態。
レタス腐敗病④

同じように悪臭は無く、糸状菌の胞子も見られない為、腐敗性の病害と思われる状況。
レタス腐敗病⑤




レタス腐敗病の予防方法は?? 病害を拡大させない為の方法について。

レタス腐敗病が発症するのは、一般的に結球初期くらいからが多いと言われています。
農薬での防除は、種まき後30日くらい(結球が始まる前くらい)から予防散布を行うよう現場指導がすすめられています。

特に注意が必要な予防タイミングとしては、「強風や雨が起こる前」、寒い時期であれば、「凍害が起こりそうな温度条件」が予想できる時です。

作物に痛みが起こりそうな時には、前もって予防防除を行うようにしましょう。

予防防除のタイミングが間に合わず、降雨・風・凍害等の被害を受けてしまった後には、速やかに薬剤防除を行って下さい。
この時に用いる薬剤は、できるだけ治療効果のある薬剤(発病の進展を止める効果のある薬剤)を用いるようにしましょう。

また、この病害は多湿条件下で発病が蔓延しやすくなる為、春の作型の場合はトンネルの換気に十分気を付けるようにして下さい。
トンネルを換気する際は、風が直接当たる方を開けるのではなく、風が直接当たらない風下側を開けて片側換気を行って下さい。
直風による葉の痛みを起こさないよう配慮しましょう。

更に、温度条件に作用する病害ですので、換気には注意しつつも、凍害を受けないよう配慮もしなければなりません。

病原菌が付いたまま出荷処理を行うと、移動中や出荷先で腐敗していてクレームに繋がるような事もありますので、収穫の遅延にも気を付けながらローテーション散布を行うようにして下さい。

この病害の病原菌は土中に残りますので、発病株や残渣は、次作に影響を出さないよう、極力畑の外に持ち出して処分するようにしてください。



レタス腐敗病に登録のある農薬について。

細菌性の病害ですので、病害が出てからの処置ではなく、予防処置が重要となります。

予防的に散布する農薬としては、銅剤などが主軸となります。
しかしながら、銅剤は結球期以降の散布になると、葉焼け等の薬害を生じるリスクもある為、結球作物の場合は、結球前までのタイミングを目途に散布を行って下さい。

無機銅剤農薬としては以下の農薬が有ります。
Zボルドー水和剤クプロシールドフロアブルジーファイン水和剤など。

無機銅剤を含む農薬を使用する際は、クレフノン水和剤(炭酸カルシウム剤)を用いると薬害を軽減するのに非常に有効です。
但し、汚れが激しい為、結球期以降の散布は控えましょう。

有機銅剤農薬としては以下の農薬が有ります。
シトラーノフロアブルキノンドー剤ドキリンフロアブルナレート水和剤ロブドー水和剤ヨネポン水和剤オキシラン水和剤など。

シトラーノフロアブルは有機銅とダコニールの混合剤、ロブドー水和剤はロブラールと有機銅の混合剤、オキシランはオーソサイドと有機銅の混合剤、ナレートはスターナと有機銅の混合剤です。
こちらも銅成分を含みますので、結球期以降の使用はお勧めしません。

治療系薬剤としては以下の農薬があります。
■抗生物質剤
アグリマイシン-100水和剤
ストレプトマイシンとオキシテテトラサイクリンという2種類の抗生物質成分を含む農薬です。

※オキシテトラサイクリン成分単剤としては、成分量の高いマイコシールドという商品もありますが、レタスの登録が有りません。

ストレプトマイシンを含む農薬は、高濃度散布や植物生育が活発化する温度(あくまで目安ですが一例として25℃以上を超える気温条件下)で散布すると、 クロロシス症状(黄化現象)という作物の色が抜けてまっ黄色な状態を引き起こし、生育の抑制がかかりますので注意が必要です。
このクロロシス症状は、葉菜類の場合、作物の成長にそって次第に回復してきますが、生育ステージによっては完全回復しない場合もありますので気を付けましょう。
レタス以外の事例では、このクロロシス効果を使ってわざと生育を遅らせるといった農家の知恵があります。
※散布タイミングは生産者それぞれのタイミングがありリスクも有りますのでここでは割愛します。

アグレプト水和剤
アグリマイシン剤同様、ストレプトマイシン成分の抗生物質製剤です。
注意点はアグリマイシンと同じですので割愛します。

ドーマイシン水和剤
ストレプトマイシンと有機銅との混合剤です。
ストレプトマイシン剤の注意点は上記薬剤と同様です。
また、銅剤を含有していますので、結球前までの使用がおすすめです。

カッパーシン水和剤・カスミンボルドー水和剤
カスガマイシンという抗生物質と無機銅剤との混合農薬です。
一般の販売店で販売している物をカッパーシン、JAで販売している物をカスミンボルドーと言います。

カッパーシンもカスミンボルドーもどちらも生産現場ではよく使われる農薬ですが、無機銅剤を含んでいる事も有り、少しクセの強い農薬ですので、薬剤散布する際はできるだけ早く乾くように、散布タイミングに配慮しましょう。
小さい内の使用は薬害が出やすい為、生育中期以降から結球前までのタイミングで使うようにして下さい。
ストレプトマイシン剤のようなクロロシス症状とは異なりますが、高温時に散布すると葉焼け等の薬害症状が出る事が有ります。
また、連続で散布すると葉の周辺が黄化したりすることがありますので、連用はさけましょう。
無機銅剤を含有していますので、散布の際はクレフノンを混用する事をお勧めいたします。
JAでのみ販売しているカスガマイシンを含む農薬としては、カセット水和剤という製剤もあります(カスガマイシン+スターナ)。

バリダシン液剤5
生産現場で一番使われているであろう抗生物質剤です。
バリダマイシンという抗生物質成分を含有しています。
上記までに挙げている抗生物質剤と比べると、マイルドなイメージのある薬剤で、薬害リスクが非常に低いといった特徴があります。
散布すると茎や葉から成分が吸収されて、導管内の細菌増殖を抑える作用があります。

■その他の治療効果剤
スターナ水和剤
オキソリニック酸という成分の殺菌剤で、腐敗病以外の細菌性病害にも効果のある殺菌剤です。
この殺菌剤の基本作用は、病原細菌の増殖抑制効果です。
降雨、大風で被害が出る前の予防散布での活用がおすすめです。

ソタールWDG
スターナとリゾレックスの混合薬剤。
スターナの作用による細菌性病害への効果と、リゾレックスの作用によるリゾクトニア菌(カビ菌)病害への防除効果が有ります。
発病前の予防散布、降雨後すぐの散布がおすすめです。

■微生物菌を作物に付着させる事で病害発生を抑える薬剤
ベジキーパー水和剤
シュードモナス フルオレッセンスという微生物を用いた農薬です。
JAS法に適合していますので、有機栽培や特別栽培農産物を作られている方にもお勧めで、農薬散布回数はゼロカウントの農薬です。

微生物農薬は、椅子取りゲームのような要素がありますので、病害性のある雑菌が作物にとりつく前に、病気にならない菌で席を埋めてしまおうという農薬になります。

使い勝手のデメリットとしては、上記に挙げた抗生物質剤、銅剤、スターナ剤等の薬剤だと、ベジキーパーの微生物菌にも影響する為、混合散布ができません。
また、微生物菌体資材は、常温だと長期保存ができませんので、購入したらできるだけ素早く使い切る必要が有ります。
また、化学農薬より散布間隔を短く、マメに防除する必要があります。

メリットとしては、作物への付着効果が高いので、適度な降雨があると菌がより定着しますので、定期的に薬剤を散布してやると、レタス腐敗病の発生を抑える効果があります。
また、ベジキーパーには菌体資材特有の副次的な作用があります。

作物が何かの菌に寄生されていると他の雑菌が入りにくくなる為、出荷する前の仕上げ散布で使用すると、その後の棚持ち効果が期待できます。

※この棚持ち効果については、生産現場のマメ知識的な話になりますので、メーカーが製品的に保証している内容ではありません。


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■M.O.X・アミノ酸またはミネラル系液肥とのローテーションで健全な状態を保つ

M.O.Xは肥料登録商材ですが、主成分はオキシドールの為、雑菌に対する一定の効果が期待できます。
腐敗病菌に対して効果確認は行っておりませんが、作物を健全な状態に保つのには効果が有ります。

凍害により作物が傷んでいるような場合は、樹力の回復が必要です。
アミノ酸系やミネラル系の液肥など、樹力回復を狙った液肥の投入や、凍害・湿害対策向けの液肥の投入も良いでしょう。



まとめ

レタス腐敗病には3種類の発病原因菌があります。
発病末期には他の病害もまざってしまう為、できるだけ予防散布に努めましょう。
温度条件にも注意が必要な病害ですので、トンネル栽培時期は、換気等にも注意して下さい。

細菌性病害は腐敗病以外の病害もありますので、銅成分剤の使用や、抗生物質剤、微生物剤などを用いて定期的にローテーション散布を行うようにして頂ければと思います。


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