ネギや人参で問題となっている「ネギネクロバネキノコバエ」の生態と防除方法等について

ネギネクロバネキノコバエは、2014年10月に埼玉県北部の秋冬ネギで発生が確認され、翌2015年5月に春ニンジンでの被害が確認された国内初発生となる害虫です。
2018年にはニラでも被害が確認されています。

発生当初は防除対策が無く深刻な被害も見られましたが、生態の解明や農薬登録が進んだ現在では、ある程度防除コントロールが効くようになってきました。

今回は、ネギネクロバネキノコバエにスポットを当ててご紹介していこうと思います。
画像は著作権等の都合で掲載できませんので文章主体の内容となります。

2020年1月に、農研機構さんのHP上に、「ネギネクロバネキノコバエ Bradysia odoriphaga 防除のための手引き(技術者向け)-2020年改訂版-」が案内されておりますので、害虫の画像や防除体系をより詳しく知りたいという方は、そちらもご覧頂ければ防除の参考になると思います。



ネギネクロバネキノコバエとはどんな害虫なのか?

ネギネクロバネキノコバエは、クロバネキノコバエ科の一種です。

同種の害虫としては、チバクロバネキノコバエ、ジャガイモクロバネキノコバエがいます。
この2種類が有機物を好むのに対し、ネギネクロバネキノコバエは新鮮な植物を積極的に加害する為、問題害虫となっています。

近年の調査で、ネギネクロバネキノコバエは、中国でニラ等に大きな被害を出しているブラディシアオドリファーガ(Bradysia odoriphaga)と同一種である事がわかりました。


ネギネクロバネキノコバエの生態について

■ネギネクロバネキノコバエの発育期間

卵から成虫になるまでにかかる日数は、25℃条件下で約27日とされます。
発育に必要な温度は8℃以上。
成虫の寿命は、雌で4.3日、雄で5.7日。
1匹の雌が産む卵の数はおおむね90個程度です。

■食性について

ネギネクロバネキノコバエの被害が大きい作物は、ネギとニンジンが代表格ですが、それら以外にもダイコン、ニラ、一部の雑草を食害する事がわかっています。
これ以外にも様々な野菜や植物を食べて生育できるようで、有機物である米ぬかでも生育できるようです。
環境次第では、これまで確認されていない作物にも被害が出る可能性がある為、今後も注意が必用です。

■行動について

成虫は羽があるので飛翔できますが、主に歩行によって移動します。
ネギ圃場では地表面や葉上を歩行している様子を見る事ができ、かなりすばしっこく動き回ります。

あくまで目安となりますが、成虫の1日当たりの移動距離は、おおむね10mから最大で90m程度と考えられています。

同じような黒い成虫でタマバエ等がいますが、こちらは集団で飛翔する為、ネギネと区別が可能です。



ネギネクロバネキノコバエに加害された際の被害の様子はどんな感じか?

ネギネクロバネキノコバエは、幼虫(ウジ)による加害が問題視されています。
幼虫は植物の地下部(根本部)に寄生し、地上にはほとんど出てきません。

ネギの場合は、茎盤(けいばん)や土中の葉鞘部を好んで寄生し、集団でいる事が多い為、食害被害が甚大になります。
一方で地上部の被害はありません。
但し、地下部の食害が激しくなってくると、外葉が枯れたり生育が悪くなるといった症状が出てきます。
同種のチバクロバネキノコバエやジャガイモクロバネキノコバエの場合だと、寄生幼虫数が多かったとしても被害はほとんど有りません。

↓ネギの部位名称
ネギの部位名称

ニンジンについては、食害された場所は黒褐色になる為、見た目はシミのような汚らしい状態になります。
ネギの場合は多数のウジと激しい食害痕が目立ちますが、それとは異なり、被害の大きさの割には幼虫の寄生は少ないようです。



ネギネクロバネキノコバエの発生サイクルについて

■発生時期について

埼玉県のネギを中心とした例ですが、ネギネクロバネキノコバエの発生時期は3月中旬ごろから12月上旬頃までとされており、年間で6~7世代発生します。

成虫の発生のピークとしては、3月~11月前後までの期間で、年に8回程度とされています。


■幼虫(ウジ)について

幼虫は気温の低下する9月以降に増加する傾向がある事がわかっています。
土中の植物に寄生して越冬します。

幼虫の発生ピークとしては、9月の下旬頃から右肩上がりで増え始め、11月中旬から12月にかけてがもっと寄生が多くなる時期です。
冬場は寒さのせいで成虫になれない為なのか、幼虫の個体数が多くなる事がわかっています。


ネギにおけるネギネクロバネキノコバエ被害を防ぐための対策

ネギネクロバネキノコバエの被害を防ぐためには、被害地域全体で防除を行い、生息密度を下げる事が大切です。

ネギの場合、加害部分は土中深くの茎盤部に幼虫が居る為、農薬による防除は、農薬ダメージを与えやすい「土寄せ前まで」に徹底して防除する事が最も重要となります。


防除対策として押さえておきたいポイントは以下の4つです。

①定植時にはフォース粒剤を施用する。
②今の所、最も効果が高いとされているアルバリン顆粒水溶剤(JA品はスタークル顆粒水溶剤)を土寄せ前と幼虫増加期前(8月下旬または10月中旬頃)に灌注処理する。
③ネギネクロバネキノコバエの一世代は1カ月程度なので、3週間間隔で薬剤散布を行う。
④散布する時は、株元によくかかるようにする。


これらを踏まえた体系防除の例を以下に挙げておきます。


■5月定植のネギに対しての薬剤散布例

① 5月下旬頃に定植するとした場合、定植時にはフォース粒剤を処理。
コストはかかりますが、ネギネクロバネキノコバエの被害が出ている圃場の場合は、十分な薬剤効果を出すためにも9Kg処理がお勧めです。

※フォース粒剤の登録内容
クロバネキノコバエ類 9kg/10a 作条土壌混和 定植時
同じ処理量でネダニ類に対しても登録が有ります。

② 6月下旬頃にはベストガード水溶剤等のネオニコチノイド系薬剤を散布。
 (2000倍 300L/10a)

③ 7月下旬にはカスケード乳剤を軸に薬剤散布。
株元にもしっかりかかるように散布。

④ 8月上旬にはデミリン水和剤を用いて灌注処理を行う
※ 2000倍 300ml/1㎡

⑤ 8月下旬の土寄せ前のタイミングで、アルバリン顆粒水溶剤を灌注処理。
※ 1000倍 1L/m² 株元灌注

⑥ 9月中旬頃にはカスケード乳剤を軸に散布。

⑦ 10月上旬には再度デミリン水和剤の灌注処理。

⑧ 10月下旬と11月中旬にはベストガード水溶剤(2000倍)またはランネート45DF(1000倍)を用いた防除を行う。


■9月定植のネギに対しての薬剤散布例

① 定植時の9月上旬にフォース粒剤を 9Kg/10a 処理。

② 10月上旬にはカスケード乳剤を軸に防除。

③ 土寄せ前の10月中旬にはアルバリン顆粒水溶剤を灌注処理。

④ 11月上旬にはカスケード乳剤を軸に防除

⑤ 3月下旬および4月中旬にはベストガード水溶剤またはランネート45DF等をもちいて防除を行う。


土中のウジが問題となりますので、水量は多めにし、株元を中心にたっぷり散布する事がポイントです。

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人参におけるネギネクロバネキノコバエ被害を防ぐための対策

人参は、トンネルを外す時期とネギネクロバネキノコバエの成虫が飛び始める時期が重なっている為、この時期の防除がとても重要となります。

防除対策として押さえておきたいポイントは以下の4つです。

①は種時にフォース粒剤を施用する。
②今の所、最も効果が高いとされているアルバリン顆粒水溶剤(JA品はスタークル顆粒水溶剤)をトンネルを外した直後(4月上旬頃)に灌注処理する。
③ネギネクロバネキノコバエの一世代は1カ月程度なので、3週間間隔で薬剤散布を行う。
④散布する場合は、株元によくかかるように散布する。


これらを踏まえた体系防除の例を以下に挙げておきます。


■は種時が12月~1月に行う人参での薬剤散布例

① は種時にフォース粒剤を処理。

※フォース粒剤の登録内容は、クロバネキノコバエ類に対しては、12kg/10a、全面土壌混和 、は種前の登録となっています。
は種時の登録はネキリムシに対して使う場合の登録内容ですが、は種後の使用でなければ問題ありません。
防除効果を安定させるためにも12㎏処理でいきましょう。

② 4月上旬頃のトンネルを外した直後のタイミングで、アルバリン顆粒水溶剤を灌注処理する。
※ 400倍 株元灌注 0.4L/m²

③ 4月下旬~5月上旬はカスケード乳剤を軸にヨトウムシ防除を意識する。

④ 5月中下旬にかけては、ランネート45DF( 1000倍  300L/10a)で防除。


人参についてもネギの場合と同様に、土中のウジが問題となりますので、水量は多めにし、株元を中心にたっぷり散布する事がポイントです。



クロバネキノコバエ類の登録薬剤について

2020年2月現在、上記に挙げた農薬以外にもクロバネキノコバエ類に対する登録を有する農薬はあります。

薬剤名のみピックアップしておきますので、具体的な作物、登録内容等については個別にチェックしてみて下さい。

●ダイアジノン粒剤5
●アルバリン粒剤
●ディアナSC
●トリガード液剤
●ハチハチフロアブル

今後も登録薬剤が増えていくとは思いますが、農薬の登録内容は変わったり削除になったりする事が有りますので、ご利用の際は前もって登録内容をチェックしてからお使い下さい。


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生育期の農薬処理以外に行った方が良い防除対策について

具体的には3つのポイントが有ります。

①残渣対策をしっかり行う

収穫後の残渣にはネギネクロバネキノコバエの幼虫が付着している可能性が有りますので、残渣の処理はしっかり行っておくと良いです。
方法としては以下の例等が有ります。

■残渣を圃場に集め、土壌消毒剤であるキルパーを使って死滅させる
※ キルパー
前作のねぎの作物残渣に寄生したクロバネキノコバエ類蔓延防止という目的で、 原液として40ml/m² を圃場内に集積した残渣物に所定量の薬液を散布し被覆する。 集積後からは種又は定植の15日前までという登録内容があります。

■石灰窒素とともに土壌混和し、早期に腐熟させる
※処理目安は60Kg/10a

■微生物資材を用いた分解資材を活用して残渣分解を行う
※お勧めは分解ヘルパー631 15㎏
バチルス菌の分解資材は世の中に多々存在しますが、その中でも特に分解力の高いプミルスという菌を含有しています。
稲わらから根菜類まで、幅広い残渣を強力に分解してくれる商材です。
処理目安は2~3袋/10a。
投入数量は多くなりますが、土壌消毒剤や太陽熱消毒との併用も可能です。


②排水対策を行う

ネギネクロバネキノコバエの幼虫は多湿を好む為、圃場に水が滞留しないように明渠(めいきょ・排水用の溝)の設置や排水路の確保を行うようにしましょう。
土質が悪い場合は、土壌改良資材等を用いて土壌を団粒化させる事も大切です。
定期的な投入が必要となりますが、腐植酸資材なども上手に活用しましょう。

③周辺作物や雑草の管理を徹底する

冒頭ご紹介したように、ネギや人参以外の作物や雑草にも寄生しますので、周辺作物の防除や除草作業を定期的に行いましょう。
特にキク科の雑草に寄生する事がわかっています。



まとめ

今回は、ネギネクロバネキノコバエにフォーカスを当ててご紹介しました。

冒頭書いたように、防除マニュアルという物が存在していますので、より詳しく知りたい!という方は、そちらもぜひチェック・実践して頂ければと思います。

2015年の発生から2020年にかけて、色々な先生方が研究してきてくれたおかげで、今では有る程度の防除コントロールができるようになってきています。
どうしても薬剤コストはかかりますが、何もしなければその地域の作物は全面出荷停止!農業収益ゼロ!なんて状況にもなりかねない危険性も有った為、短い年月の中で研究者の方々も農薬メーカーも相当努力してきた事が伺えます。


実用化されるかはわかりませんが、現在も色々な研究がされているようです。

ナタネ粕にネギネの次世代抑制効果があるのではないか?
アブラナ科野菜に含まれるグリコシレートがネギネに影響を与えるのではないか?
コマツナ栽培で次世代抑制効果があるか?
ネギ畑の優占種であるドヨウオニグモがネギネを捕食する事がわかっており、こいつを有効活用できないか?
その場合の農薬防除はどのような薬剤をチョイスすれば良いか?
IPM防除はどうしたら良い??
ハネカクシ類の一部の品種もネギネを捕食する事がわかっており、こいつを天敵として活用できないか?
等々……。

もしかしたらこういった研究の中で、そのうち生産現場で実用化される物もあるかもしれません。

農薬についても新しい農薬がどのような効果を得られるか?についての鑑定が定期的に行われているようなので、今後も更なる有効なローテーション防除の構築ができるかもしれません。

農業技術研究センターや農研機構さん等の情報もチェックして頂ければと思います。


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