今回は、2020年6月より順次発売予定となります新規水稲中後期除草剤「リンズコア剤(ロイヤント乳剤・ウィードコア粒剤)」について書いていきます。
「リンズコア(フロルピラウキシフェンベンジル)」は、コルテバアグロサイエンス(旧・ダウ・アグロサイエンス)が開発した新規有効成分です。
イボクサ、クサネムのレスキュー剤というと、これまでJAでのみ取扱いのあったノミニー液剤しかありませんでした。
水田雑草防除において、最終的には人力による抜き取りか、対応できる草であればバサグラン剤で対処するという防除体系が一般的でしたが、今回のリンズコア剤(ロイヤント乳剤とウィードコア粒剤)の発売により、防除体系の選択肢が増える事になりました。
2021年以降は、日本農薬さんが国内販売を継承する形となっています。
系統(JA側)メーカーではクミアイ化学さんも販売しています。
目次
新規有効成分リンズコアの特徴やスペクトラムについて
リンズコア剤は、除草剤の簡易分類グループである「HRACグループ」の中のO(オー)体に属する合成オーキシンです。
「ホルモン剤」のくくりになります。
合成オーキシン除草剤というと24Dが代表的ですが、リンズコア剤はこれまでの成分と異なり、特異的なスペクトラムと効果の発現が早いという特長を持っています。
■殺草スペクトラムの目安
●ノビエ:極大
●一年生カヤツリグサ科:極大
●コナギ:極大
●クサネム:極大
●イボクサ:極大
●その他の一年生広葉:極大
●ミズカヤツリ:極大
●ウリカワ:極大
リンズコア剤は、ノビエ、広葉雑草、一部のカヤツリグサに効果があります。
上記のスペクトラムの中では、特にノビエ、コナギ、クサネム、イボクサ、オモダカ、北海道等で問題となっているミズアオイ等に非常に高い効果を示します。
また、SU抵抗性雑草、高葉齢の雑草に対しても高い効果を示します。
一方で、ホタルイやクログワイに対しては弱いといった特徴がありますので、ホタルイやクログワイが主体となる圃場については、他の除草剤を選択するか、ペノキススラムとベンゾビシクロンとの混合剤であるウィードコア粒剤を使うという選択肢も有ります。
ロイヤント乳剤の規格やスペクトラム特徴等について
ロイヤント乳剤の規格は200ml・1L規格となっています。
有効成分リンズコアの含有量は2.7%。
使用方法は、落水散布またはごく浅く湛水して散布となっており、完全落水しなくても使えるという所は良いですね。
農薬の登録内容は不定期に変わる場合が有りますので現行の登録内容の詳細はメーカーのHPをご参照下さい。
■ロイヤント乳剤の各雑草に対する防除目安
【一年生雑草】
●ノビエ:5葉期まで
●クサネム:約50㎝まで
●イボクサ:約50㎝まで
●コナギ:心形葉3葉期まで
●ミズアオイ:心形葉4葉期まで
●アゼナ類:4葉期まで
●ナガボノウルシ:約10㎝まで
●アメリカセンダングサ:約40㎝まで
●タマガヤツリ:4葉期まで
●ヒメミソハギ類:約50㎝まで
●ヒレタゴボウ:約20㎝まで
●タカサブロウ:約30㎝まで
●チョウジタデ:約10㎝まで
【多年生雑草】
●マツバイ:発生盛期まで
●ミズカヤツリ:約25㎝まで
●ウリカワ:6葉期まで
●セリ(増殖期まで)
※葉齢と期間については、メーカー技術資料より抜粋
現地でのブレを見越して当ブログでは「約」と補足しています。
実際は上振れする草種もあると思いますが、ある程度このくらいの大きさまでを目安に散布するのが良いと考えます。
コナギやミズアオイ等、ハート形の葉っぱ(心形葉)が出てしまった場合、バサグラン剤を除くと使える薬剤が有りませんでしたが、リンズコア剤はこの辺りについても対応できるところが良いですね。
■耐雨性や残効性について
ロイヤント乳剤を5葉期のノビエに散布し、1時間後、2時間後、4時間後に人口降雨機で50mm/hを15分間降雨処理した試験内容で、防除効果に影響が無いという結果となっています。
ロイヤント乳剤が高い耐雨性のある薬剤である事がわかります。
残効性については、薬剤を土壌表面に処理してから経時的にコナギの催芽種子を土壌表面にまいて20日後に残草量を調査する試験において、防除値100%を21日間キープしたというメーカー事例が有ります。
落水しての土壌散布と茎葉処理散布とでは効果にブレが出ると思いますが、土壌表面処理の場合は、2週間くらいの残効は担保されているのかな?という印象です。
ロイヤント乳剤の実際の殺草効果について
先にも挙げましたが、リンズコア製剤は処理してからの効果の発現がとても速いといった特徴が有ります。
実際にロイヤント乳剤(リンズコア剤)を圃場で使った場合の例を紹介しておきます。
↑画像は、処理後1日のクサネムやコナギです。
わずか1日後であっても葉の展開が悪かったり、よじれ(捻転)が発生したり、水中に沈みこむような症状が見られます。
無処理区↓の状況と比べると一目瞭然で、明かに薬が効いているといった感じがわかると思います。
無処理区の雑草は元気いっぱいです。
葉の展開も良く、水中に沈むこむような様子も見受けられません。
リンズコア製剤はクサネムに対する効果が非常に高いです。
特に試験ポットだと効果の発現がより顕著に出ます。
ロイヤント乳剤を処理して3日後の様子↓
激しい黄化症状が出ていますね。
元々活性は低いですが、クリンチャーバスME(クリンチャー+バサグラン)を処理したポットと見比べると明らかに違います。
クリンチャーバスME処理ポット↓
クリンチャーバスMEは後期除草剤としてはよく使われる除草剤ですが、クサネムに関しては無処理区と変わらないくらい元気いっぱいです。
ちなみにノミニー液剤については処理後3日程度だとこのような感じ↓
葉が閉じた状態になり、若干黄化している感じもあります。
圃場でこのような状態を見ると「薬が効いているな」と感じると思います。
ノミニー液剤も大変よく効くんだなという印章を受けますが、ロイヤント乳剤の方が黄化の具合など、より効いているという印章を受けますね。
イボクサに対する効果も紹介しておきましょう。
イボクサ30cm程度の状態で薬剤処理を行い、3日程度経った状態です。
無処理区については葉の展開が良く、水面より上に出ていますが………
ロイヤント乳剤を処理した物は、茎葉全体が水中に沈み込んだ状態になります。
クサネム同様、イボクサに対しても良く効いている事がわかります。
ちなみに同じ条件下のノミニー液剤はこんな感じです↓
葉は展開していますが、一部は沈み込みが見られ、薬が効いているという感じがします。
ノミニー液剤もやはり良い除草剤だなという印章を受けます。
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ロイヤント乳剤の薬害について
■水稲に対する安全性や収量への影響について
メーカー技術資料では、以下のような明記があります。
初期剤との体系防除でロイヤント乳剤を茎葉処理。
経過観察において、大きな薬害は認められていません。
軽微な薬害が見られた場合も回復しています(メーカー事例より)。
ロイヤント乳剤を幼穂形成期、出穂一週間前に茎葉処理した場合、登録内容の200ml/10aで処理した場合と倍量の400ml/10aで処理した場合、両方とも収穫量に影響はありませんでした(メーカー事例・製品技術資料より)。
これらの文面を見る限り、ロイヤント乳剤は激しく薬害を起こすような薬では無いんだなという事がわかります。
「ロイヤント乳剤の実際の薬害症状ってどんな感じなの?」という点について紹介しておきましょう。
ロイヤント乳剤は、重複散布等で規定量以上(倍量以上)の濃度が入ってしまうと、矢印部分のようなロール葉(ろーるよう)という薬害症状が起こります。
通常は開いている葉が、ネギのように円柱形に丸まってしまう症状です。
メーカーさん曰く、倍量程度ではこのような薬害が起こる事は少ないようですが、ロール葉は飛散した次の葉から出てくる事が多く、4倍以上の濃度になってくると生育の遅延なども起こり、分けつにも影響が出てきます。
処理量が多い(吸収量が多い)と、ロール葉の他に画像右下のような「葉の倒れ込み」も起こります。
ロイヤント乳剤は稲に対して高い安全性がありますが、散布する場合は登録内容通りに使うようにしましょう。
ロイヤント乳剤の使用時、使用後の注意点
ロイヤント乳剤を散布する場合は、周辺作物に薬液が飛散しないよう十分注意して下さい。
リンズコア剤がクサネムに対して非常に高い効果がある事はわかって頂けたと思いますが、水稲時期に作付が被る作物としては「だいず」等の作物が有ります。
特にだいずはマメ科の作物なので、クサネムと同じように激しい薬害が起こります。
ダメージが収穫量に直結してしまう為、十分注意して下さい。
「×1」は通常稲に使用する際の濃度を想定しています。
処理後2日程度でこのような状態になります。
このまま日数が進むと完全枯殺です。
ものすごく濃度が薄かったとしても無処理区とは差が出てしまっていますね。
以上の事から、ロイヤント乳剤を使用した散布器具は、使用後速やかに「十分丁寧な」洗浄を行って下さい。
洗浄が不十分の状態で、例えばだいずに違う薬剤を散布してしまったりすると、散布器具に残ったリンズコア剤の薬液が影響を与える事が有ります。
■乗用管理機の場合の洗浄の手順
① 薬液は残さないように調整し、使い切るようにします
② 散布後は速やかに洗浄作業に移ります
③ タンクの内壁を念入りに洗浄しながら、タンク容量の10%以上の水を貯めます
④ ホース、ノズルから洗浄水を排水します
⑤ ②、③の作業を3回以上繰り返します(必須事項)
⑥ 散布器具の外壁を丁寧に洗浄します
■背負い動噴の場合の洗浄の手順
① 薬液は残さないように調整し、使い切るようにします
② 散布後は速やかに洗浄作業に移ります
③ タンクの内壁を念入りに洗浄しながら、タンク容量の10%以上の水を貯め、よく振って内部を洗浄します
④ ホース、ノズルから洗浄水を排水します
⑤ ②、③の作業を3回以上繰り返します(必須事項)
⑥ 散布器具の外壁を丁寧に洗浄します
除草剤なので、洗浄作業は念入りに行うようにしましょう。
ウィードコア粒剤の特徴・効果等について
ウィードコア粒剤は、ロイヤント乳剤では効果が弱いホタルイやクログワイについてもカバーできる混合製剤です。
同メーカー品のワイドアタック剤に含まれる有効成分「ペノキススラム」と、白化剤である「ベンゾビシクロン」との混合剤になります。
成分詳細としては………
リンズコア:0.4%
ペノキススラム:0.5%
ベンゾビシクロン:2.0%
規格は1Kg粒剤の他、2023年度からはジャンボ剤やドローン向け規格も発売されています。
1Kg粒剤については、ドローンでの散布も可能です。
現状の登録内容についてはメーカーさんHP等でご確認下さい。
ジャンボ剤(ウィードコアジャンボSD)についてのメーカーさんHP
ドローン向け規格(ウィードコア200SD)についてのメーカーさんHP
※ドローン規格は600gなので30アール規格となっています。
■ウィードコア粒剤の各雑草に対する防除目安
【一年生雑草】
●ノビエ:4葉期まで(ロイヤント乳剤より1葉齢低い登録内容)
●オモダカ:約30㎝まで
●クサネム:約30㎝まで
●イボクサ:約40㎝まで
●ミズアオイ:心形葉2葉期まで
●コナギ:心形葉2葉期まで
●アゼナ類:3葉期まで
●ヒレタゴボウ:約10㎝まで
●ヒメミソハギ類:約20㎝まで
●タカサブロウ:約20㎝まで
【多年生雑草】
●マツバイ:増殖期まで
●ミズカヤツリ:5葉期まで
●セリ:増殖期まで
●シズイ:20㎝まで
●ホタルイ:4葉期まで
●ウリカワ:5葉期まで
●オモダカ:約30㎝まで
●クログワイ:約20㎝まで
●ヘラオモダカ:4葉期まで
●ヒルムシロ:発生盛期まで
●コウキヤガラ:約20㎝まで
※ウィードコア粒剤技術資料より抜粋
水稲に対する安全性については、小程度の薬害事例は認められていますが、収穫量に影響は無いという事になっています。
残効性については、ノビエに対して21日程度の残効があるという事になっています。
主成分が薄い分、ロイヤント乳剤と比べるとウィードコア粒剤の方が若干葉齢が劣りますが、それをカバーするだけの幅広いスペクトラムと残効性があるのがウリです。
一応、クサネムでのポット試験例を紹介しておきましょう。
20㎝程度のクサネムに対して、ウィードコア粒剤を処理して14日後の様子です。
ロイヤント乳剤のような激しい黄化症状は見られませんが、十分効いています。
他剤と比べると差が出てますね。
ノミニー液剤の登録内容について
冒頭、JA品目のノミニー液剤について触れましたが、ロイヤント乳剤との対比にもなりますので、登録内容等について書いておきます。
ノミニー液剤は、有効成分はビスピリバックナトリウム塩2.0%の製剤です。
移植水稲と直播水稲両方の登録を持っています。
●移植水稲のクサネムに対しての登録内容
移植後30日~クサネムの草丈40cmまで(九州は30cm)(但し、収穫60日前まで)
●移植水稲のイボクサに対しての登録内容
移植後30日~イボクサの茎長30cmまで(但し、収穫60日前まで)
それぞれ10アール当たりの薬量は、50~100mlとなっており、使用方法は、落水散布又はごく浅く湛水して散布となっています。
■直播水稲のクサネムに対しての登録内容
稲4葉期以降(入水後)~クサネムの草丈40cmまで(但し、収穫60日前まで)
■直播水稲のイボクサに対しての登録内容
稲4葉期以降(入水後)~イボクサの茎長30cmまで(但し、収穫60日前まで)
それぞれ10アール当たりの薬量は、50~100ml落水散布又はごく浅く湛水して散布となっています。
■直播水稲の水田一年生雑草に対しての登録内容
乾田直播のは種後10日~ノビエ5葉期まで(但し、収穫60日前まで)
10アール当たりの薬量は100~200ml
乾田状態又は落水して雑草茎葉散布
といった登録内容になっています。
移植水稲においては、クサネムとイボクサに対する登録内容となっています。
■ノミニー液剤の注意事項について
ロイヤント乳剤との最大の対比部分にもなりますが、ノミニー液剤には土壌処理効果がほとんど有りません。
単発レスキュータイプの除草剤です。
耐雨性についても難が有ります。
散布後6時間以内の降雨は、薬液が流れる為効果が減少する事がわかっています。
6時間以内に降雨が有りそうな場合は、薬液がもったいないので使用を避けるようにしなければなりません。
低温下での使用は、効果の発現が遅れる場合がありますし、処理後の黄化症状といった薬害事例もあり、特に高温条件下では登録内容での低い使用量での処理が進められています。
非常に良い薬だと思いますが、この辺りは注意して使う必要が有りますね。
■直播水稲でのノミニー液剤の有効雑草について
【イネ科雑草】
ノビエ、メヒシバ、アゼガヤ、エノコログサ、スズメノテッポウ、スズメノカタビラ
【非イネ科雑草】
クサネム、タカサブロウ、スベリヒユ、オオニシキソウ、タネツケバナ、ノミノフスマ、コゴメガヤツリ、アオゲイトウ、オオイヌタデ、チョウジタデ
葉齢についての明記は有りませんが、成分としてはこれらの雑草にも有効となっています。
まとめ
ということで、今回はリンズコア剤(ロイヤント乳剤・ウィードコア粒剤)についてレビューしてみました。
クサネム、イボクサ、コナギをピンポイントに狙ったロイヤント乳剤と、ロイヤント乳剤では弱いホタルイやクログワイ等を含めた防除を狙ったワイドスペックなウィードコア粒剤。
良し悪しはありますが、選択肢が増えるというのは良い事です。
おそらくロイヤント乳剤の場合ですと、除草作業を1回で済ませたいという考え方も出てくると思いますので、現地混用でバサグラン剤と併用する場面もあると思います。
実際に使われている例も確認しましたが、薬害等の問題は見受けられませんでしたし、愛称は良いという印章を受けました。
リンズコア剤の一番の比較対象となるのはJA専門剤のノミニー液剤ですが、効果と薬害の点で比較するとリンズコア剤の方が使い勝手が良いという印章を受けました。
ノミニー液剤の場合、「幼穂形成期(ようすいけいせいき)から乳熟期の水稲には出穂・籾の品質に影響するおそれがあるので、この時期には使用しないでください。」という注意事項が有ります。
使用できる期間に制限があるのは生産者から見ると面倒だなという印章を持たれてしまいます。
一方で、ロイヤント乳剤については既定の使用量であれば、使用時期の縛りはありません。
今後、実使用の経験値が増えてくると違った評価も出てくるかもしれませんが、今の所は問題なく使えるという事になっていますので、生産者から見ると扱いやすいですね。
リンズコア剤は、スペックの高さと効果発現の速さを見ても、近年稀にみる良い製剤ではないかなと思います。
ただし、先にも挙げましたが、影響する作物がある「除草剤」ですので、使い方や使った後の洗浄については徹底して守るようにして下さい。
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