先日ネットニュース等でも話題になったJAくるめ(福岡県久留米市)の残留農薬問題。
ニュース発表から数日の間にだいぶ話が見えてきました。
元凶となる生産者さんが5~8日にかけて23ケース(1ケース25袋)程度をJAくるめに出荷し、JAが福岡市中央卸売市場の卸売会社に出荷。
福岡市内の青果店やコンビニエンスストアに流通販売された「しゅんぎく」の一部から基準値の180倍の農薬が検出されて自主回収に至ったという話ですが、原因はタマネギ栽培で使う農薬の誤使用という事でした。
今回話題になった「イソキサチオン」という成分農薬は、製品名で言うと「カルホス」という農薬になりますが、微粒剤のみ「しゅんぎく」で登録を取っています。
●カルホス微粒剤F
2020年12月現在のしゅんぎくの登録内容
対象害虫:ネキリムシ類
定植時6Kg/10a 作条処理土壌混和/使用回数1回以内
こういうニュースが話題になるとアンチ農薬使用の方々が騒いだり農薬の規制が厳しくなったりしないか心配な所が有りますが、登録通りに農薬を使っている場合、180倍の濃度で残留するような事はまず有り得ません。
むしろ農薬無しの栽培は日本国内では相当厳しいと思いますし、虫だらけ穴だらけでお店には並べられないし、食べられたもんじゃありません。
ちなみに今回話が出たタマネギで登録のあるカルホスは「乳剤」です。
2020年12月現在の登録は以下の通り。
対象害虫:タマネギバエ
定植前/500~1000倍/育苗箱1箱当たり500ml/土壌灌注/1回以内
JAくるめさんによる発表としては、イソキサチオンはタマネギの場合、土にまくので食べる部分には付着せずに収穫までの間に分解もされるが、しゅんぎくの場合は葉の部分に農薬が付着するため高濃度になり得る。
農薬の使用基準に沿って使うよう注意喚起する
という発表でした。
農薬に触れた事がある人達から見ると、「微粒剤で登録が有るから乳剤を使っちゃったんだろうな」というのが容易に想像できます………
百歩ゆずって微粒剤を散布してしまったというなら(結果的にはダメですが)言い訳としては多少筋が通るような気がします。
ですが乳剤はダメです。
結果的に悪意のある使用という事になってしまいます。
今回はたまたま残留検査で引っかかってしまっただけで、もしかしたら以前から裏技的に他の生産者の方も使っていたんじゃないか?なんて事も考えてしまいますね…
もしかしたら指導する人もしっかり注意喚起していなかったのかもしれません。
場合によっては容認していたり見て見ないふりをしていたなんて事も考えられます。
勧めていたなんて事だったら最悪です。
こういうことが起こると悪い話題や悪い想像というのは良い事よりも広がってしまうので困ったものです。
有機リン剤自体の殺虫効果としての残効は短い方だと思いますが、残留は別です。
タマネギで登録を取っているスミチオンも収穫21日前の登録となっています。
どのタイミングでカルホス乳剤を散布してしまったのかわかりませんが、恐らく散布してから短いタイミングで出荷してしまったのかな?と想像できます。
ただでさえ有機リンと聞くと世間からは悪いイメージを持たれやすいだけに残念ですね。
JAくるめさんの地域がどのような栽培体系なのかわかりませんが、早い時期のしゅんぎくであれば露地栽培も行っているのでしょうか?
時期によってはハウス栽培もあるかもしれません。
HPを見る限り、野菜も果樹も有り色々な物を作っているような地域なんだなと思いました。
今回の自主回収問題で、ブランド地位が少なからず傷つく事になった事でしょう。
しばらくはイメージ・印象の回復に時間を要す事と思います。
しゅんぎく以外の作物についても風評被害も出るかもしれません。
今回の問題で出荷先や販売店舗等も公開されています。
JAくるめさんに出荷している方達だけでなく関連業者さん達にとっても損害になり得る出来事です。
元凶の生産者の方も後悔しかないと思います。
どれほどの損害金額になるのか想像できませんが、唯一の救いは大きな人的被害が出ていない事ですね。
毎年何かしら農薬の問題というのは起こっています。
残留だけに限らず、誤飲、動物殺傷、水質汚濁、魚類被害、etc…
人のやる事ですから不正使用や被害は起こり得る事です。
農薬によっては裏技使用で問題にならないというケースも実際の生産現場によってはままある事ですが、仮に今回のように問題になってしまった場合は自分だけの問題ではなくなってしまいますし、これまで売れていた物が売れなくなってしまう、使えていた物が使えなくなってしまうといった事にもなりかねません。
使用する側も指導する側も適正使用・適正管理を徹底するのがベストです。
なかなか難しい面でもあるのですが、久々に農薬の適正使用について考えさせられる案件でした。