新規殺ダニ剤・ダニオーテフロアブルの特徴・効果・注意点について

日本曹達㈱より、これまでにない新規系統の殺ダニ剤「ダニオーテフロアブル」が発売されました。

初年度は物量が少なかったようで発売して間もなくメーカー欠品してしまいましたが、ハダニは薬剤抵抗性が非常に付きやすい害虫である為、新規の殺ダニ剤は高い需要が有ります。

実際に生産現場に広く落ちるのは来年以降になると思いますが、製品についての特徴・効果・注意点などについてまとめておきます。




ダニオーテフロアブルの有効成分・製品規格・登録内容について

ダニオーテフロアブルは、「アシノナピル」という新規有効成分を20.0%含有した殺ダニ剤です。

製品規格は250mlボトル。

ファーストラベルは、かんきつ(ミカンハダニ)、りんご・なし・おうとう・小粒核果類・いちご・なす・すいか(ハダニ類)の登録となります。

登録作物の大部分が2000倍希釈をベースとしています(1本で500L目安)。

製品登録については変わる場合が有りますので、メーカーHPで最新の登録情報をチェックして下さい。
キュウリやメロンなどの作物についても今後拡大予定となっているそうです。



ダニオーテフロアブルの特徴(メリット・デメリット)について

■ダニオーテフロアブルの特徴について

ダニオーテフロアブルを使う事に対するメリットとしては、ざっくり以下のような点を押ることができます。

●新規の作用機構を有する殺ダニ剤で、各種の「ハダニ類」に優れた効果を示します
●ハダニの全生育ステージに対して活性が有ります
●天敵・有用昆虫に対しての影響が少なく、IPM(総合的病害虫・雑草管理)での活用にも適しています。
●薬害発生事例が無りません(安全性が高い)
●気温による効果変動が小さく、安定して高い効果を示します
●高い耐雨性があります。

逆にデメリットとなる部分については以下の通りです。

●ハダニ類の専門剤である為、サビダニやホコリダニに対しては効果が期待できません
●浸達性や移行性は期待できません

●銅剤との混用はお勧めできません(基本的に混用はNGで近接散布にも注意が必要)


ダニオーテフロアブルはハダニ類に対する活性がとても高い薬剤ですが、使用する上で注意しなければならない点がいくつか有りますので、ある面で諸刃の剣的な殺ダニ剤となっています。

作物によっては、ハダニだけではなくサビダニやホコリダニに対する需要も高い為、これらの害虫を一剤でカバーできないという点はデメリットとなり得る部分です。

また、単剤で使う場合は使用タイミングを考えなければならない為、サビダニやホコリダニに効果のある薬剤と併用する薬剤選定が必要となります。

浸達性や移行性について期待できない薬剤である為、散布ムラには特に注意が必要です(展着剤の併用も必須となります)。

下部にて別途記載しておりますが、銅剤については有機銅・無機銅を問わず影響が出ます。
具体的には、銅剤と合わさるとダニオーテフロアブルの骨格が崩れる為、十分な殺虫効果が発揮できなくなってしまいます。
銅剤との混用はもってのほか(ダメ)。
近接散布もかなり注意が必要となりますので、銅剤をローテーションの軸に入れている場合はお勧めできません。



ダニオーテーフロアブルの殺ダニスペクトラム・効果について

前述したように、ダニオーテフロアブルはハダニ類に対しては種類を問わず高い効果があります。

具体的にはTetranychus属のナミハダニ・カンザワハダニ、Panonychus属のミカンハダニ・リンゴハダニに対しては、効果◎です。

一方で、フシダニ科Aculops属のミカンサビダニ、ホコリダニ科Polyphagotarsonemus属のチャノホコリダニに対しては効果×となります。
他のサビダニ類(ニセナシサビダニ等)に対しても防除効果は有りません。


ダニオーテフロアブルは、ハダニに対して速効性のある薬剤となっています。
効果の発現スピードとしては、コロマイトよりは少し遅いですが、スターマイトやオマイトより早く発現します。
ダニオーテフロアブルを処理すと、処理後数時間で殺ダニ活性を発現します。

また、ハダニ剤の中には温度条件によって効果にブレが出る物も有りますが、ダニオーテフロアブルは温度状況による効果のブレが無いというメリットが有ります。
低温10℃~高温32℃まで、活性に変化は有りません。


メーカーさんの試験事例(ミカンハダニの雌成虫におけるLC50値での温度活性の例)だと、例えばダニトロンの場合、30℃以上の高温条件下だとハダニ活性がかなり高くなりますが、温度が低い時は効果が極端に劣る傾向が有ります。

ロディーの場合も似たような面があり、ダニトロンとは対照的に、温度が低い時ほど効果が高くなる傾向が有ります。

気温条件を選ばず一定の効果が出せるダニオーテフロアブルの特徴はメリットがある部分と言えるでしょう。

例えばいちごでの使用時期を考えると、低温気(12月頃)~収穫時期まで使う事が出来ます。
使い方の例としては、天敵を導入する直前散布をする事によってのコントロールであったり、天敵導入後の適宜散布(天敵を生かす)として使う事が出来ます。



また、ダニオーテフロアブルの効果としては速効性に優れる薬剤です。
ダニオーテフロアブル 速効性比較
↑日本曹達㈱ メーカー製品ページより抜粋

メーカーさんによるナミハダニに対する効果スピードの試験事例(散布後1時間ごとのナミハダニ成虫に対する殺苦悶率)によると、コロマイトよりは劣りますが、スターマイトよりは早いといった具合です。
ダニオーテフロアブルの場合、散布後3時間も有れば、殺苦悶率としては90%くらいとなりますので、十分速効性のある殺虫剤と言えるでしょう。



ダニオーテフロアブルのハダニ生育ステージに対する効果について

前述したようにダニオーテフロアブルはハダニの全ステージに効果が期待できます。

ダニオーテフロアブル ハダニ生育ステージ別効果
※日本曹達㈱製品ページより抜粋

LC50値でのステージ別効果の表となります。
LC50値とは、ハダニが100頭いたとして、半数の50頭を殺虫できる濃度を指します。
例えばナミハダニの雌成虫を殺虫できる濃度は0.74ppmです。
実用濃度は、2000倍希釈時で100ppmとなりますので、はるかに高い殺虫率である事が伺えます。

ダニオーテフロアブルには直接的な殺卵作用は有りませんが、残効の長さ(おおむね10日程度)と耐雨性の高さ(人工降雨20mm×1時間・2時間処理しても効果がブレない)もある為、卵に薬剤が付着さえすれば殺虫効果が期待できます(ハダニが孵化するタイミングで効果を発揮)。

効果目安としては、「殺成幼若虫>殺卵」となります。


幼虫~成虫に対する殺虫方法としては、経口(食毒)と経皮(接触)の両方の作用を持ちますが、経口(食毒)の方が強い傾向が有ります。
ダニオーテフロアブル ハダニ活性 経口経皮
※日本曹達㈱ 製品ページより抜粋。

↑についてもLC50値でのppm値となりますので、実濃度で考えると経口も経皮もそれなりに強いイメージです。
葉っぱもしくは虫自体に薬液がしっかりと付着していれば、殺虫効果は十分担保されます。



ダニオーテフロアブルの天敵・有用昆虫に対する影響について

■ダニオーテフロアブルの天敵に対する影響について

●ミヤコカブリダニ(成虫・次世代)
虫体+葉片散布 200ppm処理→影響無し

●スワルスキーカブリダニ(成虫・次世代)
虫体+葉片散布 200ppm処理→影響無し

●チリカブリダニ(成虫・次世代)
虫体+葉片散布 200ppm処理→影響無し

●タイリクヒメハナカメムシ(成虫)
虫体浸漬 100ppm処理→影響無し
●タイリクヒメハナカメムシ(マミー)
ほとんど影響無し(製品HP資料より)

●タバコカスミカメ(成虫)
虫体浸漬・葉片浸漬 200ppm→影響無し

●コレマンアブラバチ(成虫)
ドライフィルム法 200ppm処理→影響無し
●コレマンアブラバチ(マミー)
虫体浸漬 200ppm処理→影響無し

●リモニカスカブリダニ(成虫・次世代)
ほとんど影響無し(製品HP資料より)


■有効昆虫の安全性に対して

●セイヨウミツバチ(成虫)
局所施用 原体アセトン溶液110㎍/個体 →影響無し
経口投与 200ppm処理 →影響無し

●クロマルハナバチ(成虫)
経口投与200ppm処理 →影響無し

●マメコバチ(成虫)
虫体散布 200ppm処理→影響無し

●ヒロズキンバエ(成虫)
経口投与 100ppm処理→影響無し


ダニオーテフロアブルは、ミツバチ・マルハナバチ・マメコバチに対しては、実用濃度で成虫に散布しても影響がありません。



ダニオーテフロアブルを使う上での注意事項について

前述しましたが、ダニオーテフロアブルは銅剤(無機銅・有機銅)との混用ができません(近接散布にも注意が必要です)。

製品ラベルに記載されている注意事項としては、以下のような内容となっています。


本剤は銅を含む製剤との混用及び近接散布で防除効果が低下するおそれがあるため、使用の際は次の事項に注意する事。

①銅剤との混用はさけること。
②本剤を散布した後に銅剤を使用する場合は10日以上散布間隔を開けること。
③銅剤を散布した後は本剤の使用を避けること。


①に関しては、薬害リスクというわけではなくて、ダニオーテフロアブルの有効成分が銅剤と反応してしまう為、ダニオーテフロアブルの有効成分の骨格が崩れてしまい効果が落ちてしまう為です。
ダニオーテフロアブルの欠点とも言える部分ですが、ダニオーテフロアブルは銅剤との相性が非常に悪い製剤です。

銅剤と殺虫剤との混用にはよくある事ですが、製剤によって殺虫剤の効果が落ちてしまう場合があります。
ダニオーテフロアブルの場合は、そういった影響が顕著に現れてしまうそうなので、注意して扱うようにして下さい。


②の部分に対しては、メーカーさんの見解として、ダニオーテフロアブルのハダニに対する効果の完成はおおむね5日程度と考えているようです。
要するに、5日もあればその場にいるハダニに対してはしっかりたたく事ができるという見解ですね。

残効としてはおおむね10日程度有りますので、その時点までに居るハダニ(卵~成虫)に対しては効果が出ているので、10日以降であれば銅剤を使用する流れをとっても良いだろうという事です。
ハダニ剤ですので、抵抗性回避を考えると、基本は1作に1回の使用というのがベストとなります。
どこかのタイミングで1回ダニオーテフロアブルを使っておけば、後は他のダニ剤でカバーしつつ、銅剤を使用しても良いでしょ?という事になります。
登録回数内で連用するような場合は、間での銅剤の使用は避けるようにしましょう。


③についての影響期間については、メーカーさんの今後の実績の積上げによって変わってくる場合もあるかもしれませんが、有機銅剤の場合は14日以上、無機銅剤の場合は2カ月以上(特にカンキツの場合)は間隔をあける必要があると考えられています。

意外にも有機銅より無機銅の方が分解されるまでに時間がかかるようです。



まとめ・ダニオーテフロアブルの上手な活用方法について

最後にまとめとして、ダニオーテフロアブルの活用方法について紹介しておきます。


ハダニという害虫は非常に小さい為、目視で確認するのは困難です。
世代サイクルも短い為、作付期間中に全ての生育ステージが混在してしまいます。

特にハダニが寄生する葉裏は薬剤がかかりにくい為、散布ムラ等による取りこぼしが起こりやすく、中途半端な取りこぼしが増える事により薬剤抵抗性も付きやすくなります。


ダニオーテフロアブルの上手な活用方法(防除方法)としては、以下のような対策が重要となります。

●ハダニの密度を上げないようコントロールする
どんなに良い薬剤であっても、ハダニが多発してからの防除となるとなかなか大変です。
天敵の活用や、異なる薬剤系統の薬剤をローテーション散布する事で、できるだけ密度を抑えた状態をキープするようにして下さい。

●葉裏まで丁寧に散布する
ダニオーテフロアブルは散布ムラに注意が必要な薬剤です。
作物全体に散布する事が重要となりますので、葉裏等にもしっかりかかるように散布角度を調整しながら薬剤処理を行いましょう。

●展着剤を活用する
ダニオーテーフロアブルは浸達性も移行性も期待できません。
展着剤を活用し、作物体に十分ダニオーテフロアブルの成分が行きわたるようにしましょう。

●異なる薬剤系統(異なるIRACコードの薬剤)を輪番で使用する
ハダニ剤は虫の生態上、特に薬剤抵抗性が付きやすいといった特徴が有ります。
同じ薬剤ばかり使用しているとあっという間に効きにくくなるリスクが有りますので、必ず異なる薬剤系統の殺虫剤を組み入れてローテーション散布を行うようにして下さい。

●ダニオーテーフロアブルの対象はハダニ類のみ
サビダニやホコリダニには活性が有りませんので、これらのダニの影響が疑わしい場合は、対応できる薬剤に切り替えて散布を行って下さい。

銅剤との混用や併用は避ける
ダニオーテーフロアブルは非常に銅剤との相性の悪い殺ダニ剤です。
有機銅・無機銅問わず、注意事項を厳守して扱うようにして下さい。


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“新規殺ダニ剤・ダニオーテフロアブルの特徴・効果・注意点について” への4件の返信

  1. はじめまして。
    いつも楽しく拝見させて頂いてます。
    私ものうらくさんと同じポジションであろう仕事をしています。
    昨年、現場での試験をした際にも高い防除効果があり驚きました。
    今年の販売はどこも割り当てのようで、店頭に並んでもすぐ完売した店舗があったみたいです。
    追記で銅剤の話をさせていただくと、液肥に含まれている銅の成分にも反応するようでメーカーの方から混用や近接散布は控えてくださいとの連絡がありました。
    ダニ剤はなかなか開発にお金と時間がかかっているので息が長く続いてほしいものです。

    • >めろんぱんさん
      初めまして。
      コメント頂きましてありがとうございます。
      補足もありがとうございます。
      確かに液肥も銅含有品は注意が必要でしたね。
      殺ダニ剤は地域性も有って感受性の低下もそれに連動するような所が有りますので本当に大事に扱って欲しいなぁと思います。
      近年は気門封鎖系の商材も認知度が高まってきていますので、殺ダニ剤を生かすためにも上手に使って欲しいなぁと思う所です。
      またご指摘等有りましたら遠慮なく書き込み下さい。

  2. イチゴが生食するわけですけれども展着剤は使用できるのですか より:

    イチゴは生食するのですが展着剤は使えますか

    • コメントありがとうございます。
      ダニオーテフロアブルと展着剤との混用についてですが、メーカーさんにも確認してみたところ展着剤の混用事例が有りませんでした(殺虫・殺菌剤の混用事例は有ります)。
      展着剤についてはメーカー側での試験事例が無いそうです。
      フロアブル製剤ですので、ある程度は付着し易い製剤かと思います。

      ですが殺ダニ剤は散布ムラを起こさない使い方がマストとなりますので、生産現場では他の殺ダニ剤と同じ様に展着剤は用いられているのではないかと思います。

      ダニオーテフロアブルのメーカーさんのHP上(SDS)を見れば確認できますが、pH5 – 9 (20°C、20%水)となっておりほぼ中性です。

      混用事例が無いのでお勧めするわけではありませんが、殺ダニ剤の効果を高めるのであれば広がりの良い展着剤を添加するのが良いと思います。
      例えばまくぴかやドライバー等。
      まくぴかはSDSで見るとpH5~7、ドライバーはpH5.9となっていますので、ダニオーテ―フロアブルと近いpHですので、混用面での影響は少ないのではないかと思います(但し、メーカー側での事例が無い為、初めて使用する場合は少量で物性(固まったりだまになったりしないか等)を確認して下さい)。

      展着剤だけを散布した場合でも環境条件や使用条件、作物条件によっては悪影響が出る場合が有ります。
      高温条件を避ける・濃度を濃くしない・作物ダメージが低い内に使用する事をお勧めします。
      組合わせる農薬によっても作物体に過剰に農薬成分を入れ込んでしまう等、悪影響が出る場合が有ります。

      ダニオーテフロアブルはひとまず置いておいて、いちごに展着剤が使えるか?という点が不安なのであれば、答えは「作物登録があれば使える」という回答です。

      農薬の登録内容は不定期にその時の化学水準に合わせた見直しが入る事が有りますので、「現時点では」という回答になってしまいますが、参考として、いちごでも普通に使われている気門封鎖剤+展着剤効果のある「フーモン」という農薬が有ります。
      こちらは野菜類登録で使用前日数は前日といった内容になっています。
      ちなみにpHは6.0~8.0

      いちごは野菜類の中に含まれる作物となりますので、散布してから最低でも1日(24時間以上)あければフーモンを処理したいちごを食すことができます。

      展着剤は殺虫剤や殺菌剤の効果を高める事を目的とした農薬ですが、使用前日数という表記が有りません。
      基本的には「展着剤製品の登録作物」に対しての使用で、薬量を守って農薬の使用前日数に合わせて使えば人体に問題はないとされています。

      この考えでいくと、農薬の使用前日数が「前日」であれば、先に上げたフーモンと同じ様に最低24時間以上あいていれば食しても問題ないという考えになります。

      多くの展着剤は野菜類に使う事ができますが、安全性の観点が重要となりますので、使用する場合は「登録作物と使用薬液量」については必ず守るようにして下さい。

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