アグリポイント ~農業現場の病害虫・栽培問題対策室~

トマトの斑点細菌病の生態と防除対策について。使用農薬についてもご紹介。

トマト斑点細菌病 生態 防除対策 アイキャッチ

今回はトマトの斑点細菌病にスポットを当てて紹介していこうと思います。
トマト斑点細菌病の生態や発生原因、感染条件などについて紹介しつつ、後半は農薬情報についても紹介していきます。
関心のある項目がありましたら目次からお進みください。



トマト斑点細菌病の生態、感染条件等について

名前の通りトマト斑点細菌病は細菌感染による病害です。

具体的には、Xanthomonas campestris pv.vesicatoria(ザントモナス カンペストリス 病原型 ヴェシカトリア)という細菌になります。

この病害の第一次伝染減は種子と土壌中にある被害茎葉等と考えられています。

病源細菌の伝染経路としては、降雨・かん水・結露による水滴等の水分を介して、作物の気孔、水孔、害虫の食害痕、風雨や管理によって生じた傷口から侵入します。

感染適温としては、20℃~25℃とされています。

露地栽培の場合は、温度条件に加えて、雨がマメに降る時等は注意が必用です。
施設栽培については、多湿条件になると発病リスクが上がります。
どちらかというと露地栽培の方が降雨等の影響を直接受ける為、被害としては多くなります。

発病してしまった場合は、防除が困難となりますので、できるだけ予防に努める事が重要です。




トマト斑点細菌病の被害症状について

トマト斑点細菌病の被害は、葉・茎・果実に症状が現れます。


■葉の病害症状

暗褐色の水浸状の円形、不正形の小斑点が出る。
病斑のまわりは黄化する。
病斑が拡大すると葉全体が枯死する。


■茎の病害症状

暗褐色の水浸状の小さな斑点が発生する。
病気が進行すると、やや隆起した黄褐色のそうか状になる。

■果実や花梗の病害症状

水浸状の小さな斑点が発生する。
周辺は白いふちどり状から次第に黒褐色の病斑となる。
病斑の中心部分はコルク化してそうか状になる。
多発してしまうとがくにも病斑が発生し、急激な生育の衰えに繋がる。


トマト斑点細菌病 症状例↓






トマト斑点細菌病に感染させない為の方法について

冒頭紹介したように、この病害は、種子や土壌中の被害茎葉が第1次伝染源となる病害です。
これを踏まえた対策として以下の方法があります。

■購入種子を使って作付けするようにする

自家用種子等の場合、前作に病害が発生していると、病原菌を持った種子である可能性がありますので、できるだけ使用は避けるようにしましょう。
どうしてもという場合は、温湯浸漬消毒(50℃で25分間)といった方法がある程度有効であるとされています。


■購入培土を使用する

基本的に市販の培土は消毒済みとなっています。
自家用土を用いる場合、消毒処理をしていない場合は病害発生のリスクが高まりますので、育苗培土は市販品の物を扱うようにして下さい。
使用する育苗トレイについても、イチバンケミクロンGハイスターAG等の消毒資材を用いて、よく洗浄しておきましょう。


■温度湿度管理を徹底する。

この病害は、比較的低温かつ多湿条件で多発する病害である為、特にハウス栽培の場合は湿度が高くならないように配慮が必要です。
室内温度を上げないようにマルチ栽培で作物を加温する方法も有効とされています。


■被害が出てしまった場合はトレイ外、圃場外にて処分する。

育苗期または定植後に病害の発生が見られた場合は、見つけ次第、外に持ち出して処分するようにして下さい。


■予防主体の薬剤防除を徹底する

発病してしまってからの農薬による治療は難しい為、発生する前からの予防主体の防除を行うようにして下さい。

ハウス栽培(施設栽培)の消毒目安としては、2週間に1回程度の予防散布を行うようにしてください。
ただし、この間に発病が見られた場合は、5日~7日の間隔で薬剤散布を行い、感染を広げないようにしましょう。

露地栽培の場合は、降雨等の影響を直接受ける為、施設栽培と比べると感染リスクが高くなりがちです。
通常防除の目安としては、1週間程度の間隔で薬剤防除を行って下さい。
ただし、降雨が予想される場合は、降雨前に予防散布を行うようにしましょう。

また、ハウス・露地ともに、害虫の発生が見られる場合は、食害により病害発生リスクも高くなりますので、圃場をよく観察して、チョウ目、ダニ、アザミウマ等の害虫の発生や被害が出ていないか?について、注意するようにして下さい。
害虫の発生が見られる場合は早めに殺虫剤散布を行うようにしましょう。


■収穫後、次作への対策

被害が出てしまった圃場は、残渣は極力すき込まず、可能な限り圃場外へ持ち出して処分するようにして下さい。
また、被害が出てしまった圃場は、病原菌を含んだ土壌となっている為、バスアミド微粒剤ガスタード微粒剤クロールピクリン等の土壌消毒剤で燻蒸消毒を行うようにしましょう。

燻蒸消毒後は、腐植酸資材と微生物資材等を投入し、地力の回復と土壌中の有効菌を増やす事で、病害が発生しにくい土壌を作ります。
但し、これらの資材施用は1回で万事OKというわけにはいきません。
連作や悪条件が重なる事で少しずつ土壌バランスが狂ってしまって悪化している事が考えられる為、継続的な施用が効果的です。

作付についても圃場を休ませられない場合は、同じ科の作物を連作しないといった対策も重要となります。



トマト斑点細菌病に使える農薬について

※農薬の登録内容は、変更になる場合や抹消される場合が有りますので、お使いになる前にメーカーHP等で最新の登録内容を確認するようにして下さい。


■トマト斑点細菌病に登録のある農薬


●カッパーシン水和剤カスガマイシン水和剤(JA品)
カスガマイシン(抗生物質)(F:24)+無機銅剤(F:M01)
石灰硫黄合剤などのアルカリ性薬剤、チオファネートメチル剤(トップジンM剤)との混用を避ける。
トマト以外の作物で薬害注意事項有り。
薬害対策として、炭酸カルシウム剤(クレフノン)との混用が有効だが、汚れが激しい。



■トマトに登録が有って、細菌性病害に有効な農薬(予防散布に有効)

●コサイド3000
無機銅剤(F:M01)
木酢液などとの混用は不可。
トマト以外の作物で薬害注意事項有り。


●Zボルドー水和剤
無機銅剤(F:M01)
石灰硫黄合剤など、アルカリ性の薬剤との混用を避ける。
トマト以外の作物で薬害注意事項有り。
水和剤という製剤上、汚れやすいといった特徴が有ります(まくぴか、ブレイクスルー、ドライバー等の展着剤で緩和可能)。


●イデクリーン水和剤・園芸ボルドー
硫黄(F:M02)+無機銅剤(F:M01)
高温時散布は薬害リスク有り。
散布直後の降雨がある場合は、湿度上昇による薬害リスク有り。
幼苗期や連用による薬害リスク有り。
トマト以外の作物で薬害注意事項有り。


●クプロシールド
無機銅剤(F:M01)
フロアブル剤で汚れにくい剤型。
石灰硫黄合剤等のアルカリ性薬剤との混用は避ける。
トマト以外の作物で薬害注意事項有り。


●ケミヘルクリーンカップ(JA品)
無機銅剤(F:M01)+バチルス ズブチリス(微生物剤 F:44)
トマト以外の作物は薬害注意事項あり。
微生物剤である為、10℃未満の低温下では微生物活動が低下する。
微生物剤である為、混用に難あり。


●マイコシールド
抗生物質剤(F:41)
石灰硫黄合剤(アルカリ性薬剤)との混用は避ける。
眼に対して弱い刺激性があるので注意する。
散布後の降雨は効果が減少する為、散布後の天気が安定する時に使用する。
夏期の高温時使用を避ける。


●マスターピース水和剤
微生物農薬(F:未)
生菌の為、使い切るようにする。
夏期高温時の使用を避ける。


トマトの細菌性病害に使える農薬は、非常に少ないです。

基本的には、カッパーシン等の登録殺菌剤と、無機銅殺菌剤を用いる事で作物体をコーティングし、病害が入りにくくするといった使い方が主軸となります。
発病してからの治療効果は期待できません。

一般的な注意点として、無機銅剤は、幼苗期や高温時、高湿度条件下の散布は薬害リスクが有る為、使い慣れていない場合は避けた方が無難です。
薬剤散布した場合は、できるだけ早く乾かすようにして下さい。
作物によっては薬害対策として、炭酸カルシウム剤(クレフノン)との混用が有効ですが、汚れが激しいといったデメリットが有ります。


マスターピース等の微生物農薬についても、微生物菌を前もって付着させておく(コーティングさせておく)事で、病原菌を入りにくくするといった作用を持ちます。
基本的に予防主体の薬なので、発病してからの治療効果は期待できません。

抗生物質剤も細菌性病害対策としては有効ですが、病害が多発してしまうと抑えるのは困難です。
発病初期の内に使うようにしましょう。

トマトに登録は有りませんが、バリダシン液剤5は注意事項にトマトにかからないように(薬害)という項目が有ります。
近隣作物でバリダシンを使う場合は、トマトにドリフト(飛散)しないように注意して下さい。



まとめ

今回は、トマト斑点細菌病にスポットを当てて、生態や発生条件、防除対策、農薬情報などについてまとめてみました。

農薬防除については、治療剤といえる薬剤がほとんど有りませんので、換気対策等を行いながら、登録農薬を予防主体で活用する事で病気を出さないコントロールが重要となります。
場合によっては、M.O.X等の酸素剤(オキシドール殺菌)も有効です。

害虫による食害痕も病害侵入の原因となりますので、定期的に作物体のチェックを行うようにして下さい。

作物体が弱ってくると色々な病害を発生する要因となりますので、追肥・液肥によるコントロールで樹勢を落とさない対策も必要となります。

使い慣れていない薬剤を使う場合は、全面散布はせずに一部散布で様子を見るようにしてください。

品種による差や、不安な点があれば、農薬取扱店やメーカーに問い合わせてからお使いになるのが良いと思います。
地域の普及所からも病害虫の注意情報等が出ている場合が有りますので、インターネット等から資料を引っ張るのも有効です。
地域性はありますがJA・全農等も個別にかわら版を出していたりしますので、問い合わせてみるのも良いでしょう。


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